新時代のこの国の主人公は人民だ
石丸:後継者問題と張成沢(チャン・ソンテク)について知っていることを話してほしい。
ケ:中央の幹部クラスが後継者問題などについて口にすれば、すぐに中央党に報告されてしまう。そんな中でヒソヒソ話程度に許されているのは「(金正日には)息子がいて、年はまだ若いが、将来後継者に立てようと考えているようだ」というレベルの話題ぐらいだ。
息子を後継者にしようとするのなら、少なくともその準備について少しずつでも公開されていかなければならないはずだが、今のところまだ何もない。国内の経済が壊滅的だから、後継問題なんかに気を使うような雰囲気ではないのだ(このインタビュー時[二〇〇六年五月]現在)。

張成沢は「革命化」が終わって、新たに事業に着手したような動きを見せている(注3)。「革命化」の理由は金にまつわる問題のようだが、たいしたことはなかったようだ。

(評判では)器が小さいといわれている。彼のことを好ましく思わない周辺勢力によるプレッシャーがきついらしい。
九〇年代、国家や社会が深刻な破壊状況に陥ったのと同時に、世代交替が起きて世の中の価値観が大きく変わった。国際環境も冷戦崩壊以前とは違うものになった現在、いずれ自然淘汰される古い時代の有力者たちに関心を持ち続けるのは無意味だ(張成沢もそのうちの一人だの意)。

今、何より考えてほしいのは、未だ視界には入って来ていないが、次代の舵取りのできる新しい人物たちがいずれ登場するだろうということだ。朝鮮では、新時代を指導すべき人材が現われることに大きな期待が向けられている。
国家を開放しなければならず、複雑で多様な国際社会にもしっかり対応できなければならない。それができるビジョンと能力を持った人材が求められているわけだ。

石丸:最後に言いたいことがあれば、どうぞ。
ケ:配給途絶が起こって十年以上が経った。しかし、配給制度をはじめとした社会主義的制度は復旧しなかった。朝鮮戦争後の廃墟の中で、国家と人民が不屈の努力で立ち上げた制度であるにもかかわらずだ。
復旧の試みがすべて失敗に終わったという事実は、それが社会発展の法則に逆らった無謀な行為だったことを証明する最大の証拠である。その失敗の原因は、権力の望む「制度」の構築に、人民が動いてくれなかったところにある。

今の政権は人民の意見、世論を徹底的に無視し、自らの利益にばかり関心を注いできた。失敗するのは当たり前だ。
今、国の将来のことを憂える人々は、地位、財産、年齢性別に関係なく、朝鮮のいたるところにいる。商人や経済人、学者、果ては党員や軍人の中にも、変革を志向する進歩的な人々が大勢いる。

したがって、そのような世論の存在を知り、社会的合意を導き出すしくみが生まれるべき時代が来ようとしていると考えたい。
何よりもまず、自由な研究の場、自由な言論の場を誕生させなければならない。全ての朝鮮人たちの意見が集められ、知識が共有され、力を合せることができるようになれば、われわれの社会は人民が望む道に向かって歴史的な運動を開始することができるのではないか。

この国の主人公はわれわれだ。どこかの他人が何かをしてくれるまで、座して待っているわけにはいかない。それだけは絶対にいけないと思っている。
(おわり)
(整理 リュウ・ギョンウォン)

注1 事大主義 この言葉は朝鮮では、大国に追随して自己保身を図る態度・傾向として、朝鮮朝時代の対中国従属政策を指して言われてきた。
注2 実事求是 事実に即して物事の真相を探求すること。鄧小平による改革開放政策を象徴する言葉。
注3 張成沢の「革命化」 金正日の実妹の夫である張成沢は、労働党組織指導部第一副部長であったが、二〇〇四年の後半から一年ほど動静が途絶えた。職を解かれて謹慎させられていたことが明らかになっている。二〇〇五年末に閑職である勤労団体部や首都建設委員会の第一副部長に就任した。しかし、二〇〇七年一〇月に労働党行政部長に就き権勢を復活させた。
※「鄧小平(とう・しょうへい)」の「鄧」の字が、一部コンピュータ環境で正しく表示されない場合があります。「鄧」は「登」の右に「こざとへん」が付いた文字です。

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