有刺鉄線の下をほふく前進で時間内にくぐり抜ける訓練を受ける兵士。(2010年4月/撮影:玉本英子)

「何をやってる!そんなんじゃ殺られるぞ!」
荒々しい声がとぶ。

イラク軍教官が、新兵たちの突撃訓練にあたっていた。
みんな砂まみれだ。顔からは汗がほとばしる。だが、機敏な動きは崩さない。

フセイン政権崩壊とともに解体されたイラク軍は、アメリカなど多国籍軍の訓練を受け、新生イラク軍として再編された。

個人装備もいまでは米軍とほぼ変わらないまでになった。米軍が採用しているキャメルバッグという背中に背負ってチューブで水を飲む「携行水筒バッグ」まで支給されている。

最前線の部隊では、これまでのカラシニコフAK-47自動小銃にかわって、アメリカ製のM-16も随時配備されつつある。
イラク軍を取材するたびに、短期間でアメリカナイズされてしまう軍の姿にすこし複雑な思いを持ち続けていた。
しかし、毎朝のマラソン訓練で、太ももを腰の位置まで高くあげて走る、アラブの軍隊独特の「ハルワラ」という走り方をやっている姿をみると、やはりここはイラクなんだなと、妙な安堵を感じる。

すでに実戦経験が長い精鋭部隊。市街戦での突入訓練は実弾を撃ちながら何度も繰り返す。(2010年4月/撮影:玉本英子)

給料は階級によって異なるが日本円にして5万~6万円ぐらいが一般下級兵卒の月給というから、イラクの物価水準からすれば悪くない額である。
ただし、殉職する確率はかなり高く、給料がその危険度に見合うかどうかは別の話だ。

世界で一番危険な街で、兵士をするなんて、家族は心配しないのだろうか。
 私はパトロール部隊のザイード・サーフェ(24)にきいた。

「家族はもちろん心配している。けど、その家族を養うためには、この仕事をしなくちゃいけない」
平和な国の軍隊は、訓練を繰り返し、他国との有事に備えるのが「任務」だ。
しかしイラクの兵士たちは、訓練が終わればいきなり自国での「戦争」に投げ込まれることになる。
(つづく)
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