イラク軍は貧困地区を重点的にまわり、医療相談や食糧配布をおこなうようになった。鶏肉の入った袋を無料で住民に配る兵士。(2010年4月/撮影:玉本英子)

カラマ地区のゴミ捨て場には、家計を支えるために空き缶を集める大勢の子どもたちの姿があった。

炎天下、汗だくになりながら、黙々と缶を小さな手で拾いながら大きなビニールに入れて歩き回っている。
地区に住む男性の多くが日雇いの仕事や建設作業などに従事していた。だが、毎日仕事があるわけではない。
武装勢力はこうした地区に浸透をはかっていった。

地区の貧しい男たちはモスクなどで声をかけられる。簡単な仕事だと、運転手程度からはじめ、次は爆発物の包みを置いてくるようさせるなど、どんどん危険な「仕事」をさせられていく。一回の報酬は百ドル程度。
やめたい、と言い出せば殺されるから、一度はじめたらもうやめることはできない。
治安権限の移譲をうけたイラク軍は武装勢力から住民を引き離すため、今年に入って貧困地域を中心に無償の医療支援や食糧配布を始めた。

当初は、イラク軍から物資をもらっただけで、「アメリカの協力者だ」と武装勢力に脅迫されたりしたが、彼らが地下化してからは、公然とそういうこともできなくなった。

「選挙で選ばれた新政府になっても生活はまったく良くならない。治安も回復しないから仕事がない。だからカネのために武装勢力に協力するもの若者もいる」と話すカラマ地区の住民。(2010年5月/撮影:玉本英子)

これまで米軍は、テロリストをかくまう協力者、と決めつければ、夜中や早朝に家を強襲して、令状も何もなしに住人を連行し、住宅地での銃撃戦もいとわなかった。

いま、イラク軍は地区住民から寄せられる情報をもとに、容疑者だけを逮捕する戦術を積極的に取り入れている。
力ずくの治安対策だけでなく、住民を味方につけて武装勢力を封じ込めるやり方は、無理な市街戦での一般市民の犠牲を減らすことにもつながった。
一歩前進、三歩後退。数年前までそんな状態だった治安状況も、なんとか一歩一歩が確実に進むようになってきたように感じる。
しかし、爆弾事件はいまも毎週のように起こっている。

人びとが不安なく平和に暮らせる日はまだ遠いのが現実だった。(つづく)
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