帰還民が多く暮らすバルトゥ・カネ地区に暮らすバシラ・アハメッドさん(左 62)の家族。書類を保管していなかったため政府からの帰還資金は受けとれなかった。(キルクーク・3月28日 撮影:玉本英子)

 

玉本英子 現場日誌
イラク北部キルクーク県では旧政権時代に強制移住させられたクルド人家族の帰還が進んでいる。
いまも爆弾事件があいつぐキルクークに入った。
町の周辺にはブロックを積み上げただけの家が目立つ。ここにはかつてキルクークを追われ、フセイン政権崩壊後に戻ってきたクルド人が暮らす。通りにはあちこちに赤と緑に黄色の太陽をあしらったクルドの旗がなびく。

1960年代以降、イラク政府はキルクークで人口の多数を占めていたクルド人やトルコ系住民(トルコマン)を、数百キロ離れた南部や中部の地方都市に強制的に移住させた。引き換えに地方のアラブ人のキルクーク移住を奨励した。独立意識が強いクルド人を追い出し、町の民族構成を変えることが目的とされた。

旧フセイン政権下でもっとも厳しい措置がとられ、数百ものクルド村が破壊され、一連の移住措置によってイラク北部全体で100万におよぶ人びとが土地を追われたとされる。
イラク戦争後、クルド人帰還が進められ、2年前に政府が制定した帰還プログラムには、強制移住されたクルド人世帯に帰還資金1000万イラクディナール(約75万円)の支給措置が盛り込まれた。

現在、9万世帯が支給申請中だが、すでにほとんどがキルクークへの帰還を終えている。
資金を受給できるのは、当時の強制移住命令書などの書類を持っている家族に限られ、すべての帰還民に支給されるわけではない。

帰還民が多く暮らすバルトゥ・カネ地区には、灰色のバラック建ての粗雑な家が立ち並ぶ。
未舗装の道路が多く、あちこちに泥水がたまっている。電力供給が不安定なため自家発電機のエンジン音があちこちから聞こえてくる。
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