クルド映画「Samiyan」の撮影風景。実際の病院の診療室を使い、夕方から明け方までの撮影となった。スタッフのほとんどはクルド人。クルド人はトルコ、イラク、イラン、シリアに暮らす民族で3000万人いるといわれる。(ドホーク 2012年7月撮影:玉本英子)

 

◆玉本英子現地報告

イラク北部クルディスタン地域のドホークではいま、若手監督による映画撮影が行なわれている。
市内の病院の診療室を借りて撮影をすすめるのは、ジャノ・モハメッド監督(40)のチーム。「アクション!」緊張した現場に、監督の声が響く。

撮影中の映画Samyanサミヤン(=「名づけの親」という意味)の制作には、イラク人だけでなく、イラン、シリア、トルコに暮らすクルド人が加わっている。欧米外国人スタッフも参加、現場ではクルド語や英語が飛びかう。

望まない妊娠をした女性と、子どもができない夫婦が織りなす複雑な人間模様を描いたストーリーだ。
看護師役でトルコからやってきたフェイトさん(39)は16歳の息子を持つシングルマザー。自身もクルド系という。トルコ国営放送局のスタッフだが、休暇をとり女優役に名乗りをあげた。

「男性社会の中で、女性ひとりが子どもを抱えて生きていくのはどれほど大変なことか。社会の矛盾を映し出した映画には共感できる」とフェイトさんは話す。

ジャノ監督は「これまでクルド映画といえば戦争というイメージだけだった。クルド社会で苦悩する人びとの姿に踏み込むことで、少しずつでも状況を変えていければ」と作品作りへの意欲を見せた。
イラクのクルド人が、自分たちの社会に焦点をあてながら、さまざまな国のクルド人と共同して映画を作り上げる試みがどのような成果を見せるのか。
映画は年内に完成予定。来年には国際映画祭への出品も検討しているという。

トルコから参加した看護師役のフェイトさん(右)とジャノ・モハメッド監督(左)(ドホーク 2012年7月撮影:玉本英子)

 

【イラク北西部ドホーク 玉本英子】

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