キルクーク市内はイラク軍、警察、治安部隊など19の組織が活動する。しかし毎日のように爆弾事件が起こり、治安は改善されていない。(2013年4月5日撮影:玉本英子)

 

フセイン政権崩壊から10年を迎えたイラクでは、各地で治安状況の改善が伝えられる。だが、民族や宗教が混住するキルクークでは、市民が安心して暮らせる状況からはほど遠い状況だ。
キルクークへの取材にあたっては「危険なので警護は必ずつけるように」と市の担当者から念を押された。カラシニコフ銃で武装したアサイシ(クルド治安機関隊員)8人が、私の周りについた。

軍用トラックで市内を走るが、路肩爆弾が埋まっているかもしれないという緊張で、額から流れる汗が止まらない。
先週にはシーア派のイスラム礼拝所に爆弾を積んだ車が爆発し、70人を越える死傷者が出た。毎日のように街のあちこちで爆弾事件が起きている。

住宅地で車を降り、通りを歩く。治安部隊の姿に人びとは遠くから複雑な表情で見つめている。気温は30度を越え、乾いた空気が喉に入り込む。茶色い町が、舞い上がる砂埃でがかすんでみえる。

車の修理工場で働く男性たちに声をかけると人びとが集まってきた。
オスマン・モハメッドさん(41)は「家族が爆弾事件に巻き込まれないよう神に祈る毎日。町のあちこちに警察や兵士の姿が見えるのに一向に治安が良くならない」と訴える。

治安機関が機能しなくなっていることで、強盗団による略奪や誘拐事件も多発、住民は、こうした恐怖にもおびえなければならない。身代金目的の誘拐では、20万ドル(約2000万円)を要求されることもあるという。

キルクークは、現在、イラク軍、警察、アサイシ(クルド治安機関)など19の組織が活動しているが、治安回復にはつながっていない。アサイシのアサッド・ジェラル中佐(45)は、「マリキがすべてを破壊した。キルクークの地元出身者で構成されてきたイラク軍上層部を他都市へ送り、代わりにシーア派の南部出身者を次々に配置させた。その後、スンニ派武装勢力の攻撃が激化し、市民にも大きな被害が出るようになった」と話す。
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