戦闘員として、銃を手に「オバマよ、よく聞け。我々は戦う」とメッセージを言わされる子ども。「イスラム国」支配地域にはすでに少年戦士訓練所が設置されている。(シリア・IS映像)

戦闘員として、銃を手に「オバマよ、よく聞け。我々は戦う」とメッセージを言わされる子ども。「イスラム国」支配地域にはすでに少年戦士訓練所が設置されている。(シリア・IS映像)


◆少年がナイフで斬首する映像を公開

ある日、収容されていた弟(10)と素手で戦うことを強要された。本気で殴り、弟の歯を折ってしまった。「教官の命令は拒否できなかった」と言う。「ジハード(聖戦)で戦って死んだら天国へ行ける」と毎日のように教え込まれた。

「ここには、いられない」。ダハム君は脱出を決意する。弟に母親を訪問する許可が出た日に、彼はひとりで脱走、母親を監禁する男の家の鍵を壊して、母と弟を連れ出した。男の家にあったお金を持ち出し、タクシーに乗り、隣国トルコの国境へ向かった。幸い、子ども2人と黒いヘジャブをかぶった女性の姿は、ISの検問でも怪しまれなかった。国境そばへ到着、民家に駆け込んで事情を話した。心を痛めた住民がイラクにいる叔父に連絡を取ってくれた。叔父は密輸ブローカーにお金を払い、ダハム君らを脱出させることができた。

「悪いのは神様のためと言いながら人を殺したり、殺させたりする人たち」。彼はそう話す。昨年12月、ISは軍事訓練所の少年たちがアサド政権協力者らを殺害する映像を公開した。10歳ぐらいと思われるヤズディの少年がナイフで男性を斬首する映像もあり、世界に衝撃を与えた。今も拉致された1000人以上のヤズディ教の住民が監禁されたままだ。自ら命を絶つ女性も相次いでいる。

ドイツはヤズディの住民被害者のために、メンタルケアプログラムを実施。ダハム君は家族とともにドイツへ渡り、現在、ケアを受けている。彼は今も、ISの男たちが夢の中に出てきて怖いという。悲しみと恐怖は子どもたちの心に深い傷跡を残した。<玉本英子>

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