偶像崇拝につながるとして、ISは通りに貼ってあったポスターの顔など、すべてを削った(シンジャル市内で2016年3月撮影:玉本)

偶像崇拝につながるとして、ISは通りに貼ってあったポスターの顔など、すべてを削った(シンジャル市内で2016年3月撮影:玉本)

 

アサド・ハッジさん(39)は20日前に避難先だったクルド自治区の避難民キャンプから帰還してきた。生活があまりに過酷だったからという。「荒れ地のテント暮らしは過酷すぎた。食糧配給も減った。どうせ苦しむのならと、故郷に戻ることを決めた」と話す。警察の仕事を得たのも理由のひとつだ。毎日、砲弾が飛んでくるため、妻と5人の子どもは外に出歩くことはほとんどない。治安部隊から食料を分けてもらい、井戸で水を汲む。電気供給はないので1日、数時間だけ発電機をまわすという。

アサドさんの親族もISに殺害されている。「ヤズディは“邪教”として次々と殺された。拉致された女性たちの多くは行方不明のまま。私たちに何の罪があるというのか。なぜ誰も助けてくれないのか」
ヤズディ団体によると、シンジャル解放以降、国際人道機関からの避難民支援は激減したという。だが周辺の町や村の多くはまだISに支配されたままで、住民帰還の目途もたっていない。たとえ故郷に戻っても、生活の再建にはほど遠い。
「ISの虐殺から生きのびただけマシだったと思ってきましたが、これほどのつらい生活を強いられるなんて」
アサドさんは顔をゆがませた。
(※本稿は毎日新聞大阪版の連載「漆黒を照らす」5月23日付記事に加筆修正したものです)

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