想像を超える貧困を目の当たりにしたことも、彼女を苦しめた。連邦軍では地元の人々も診療しており、その際、彼女は、現地の人々の悲惨な状況に接していた。ストーブで大やけどをおった子どもが連れてこられることもあった。

彼女は、ドイツにいる夫と毎日のように手紙のやり取りをしていたが、夫に心配をかけさせまいとして自らが経験したすべてを書くことはできなかった。しかし、そのことは彼女にとって精神的な負担となった。彼女を苦しめたのは、戦場での経験だけではなかった。夫の祖母が急死した際に夫を慰められなかったことも、彼女には辛い経験となった。

彼女が帰国し、夫と共に暮らすようになっても緊張状態は続き、夫にとっては、「(派遣期間中で)そばに居なかった時の方が、あなたを近くに感じる」程だった。この夫婦は協力して、以前のような関係を取り戻したいと何年も努力しているが、お互いを親しく感じることには成功していない(8)。

親密な関係にある家族がPTSDを発症した場合、帰還兵の支援を中心となって担う家族(配偶者であることが多い)は、しばしば自らの友人などとの関係をもちにくくなり、社会的に疎外されがちになる。帰還兵によってもたらされた、見えない「戦場」が家族や親しい人々の生活に与える影響は計り知れない。(了)

(1)  Lucia Jerg-Bretzke, Vladmir Harbal, Steffen Walter, Harald C. Traue, Belastung durch traumatische Erfahrungen bei Soldaten in Krieseneinsaeten: Ergebnisse aus einer Pilotstudie, TRAUMA & GEWALT, 4. Jahrgang Heft3/2010, S.186.
(2)  Jerg-Bretzke, S.193.
(3)  Anja J.E. Dirkwager, Inge Bramsen, Herman Adr, Henk M. van der Ploeg, Secondary Traumatization in Partners and Parents of Dutch Peacekeeping Soldiers, Journal of Family Psychology, Vo.19, No.2, 2005, p.218.
(4) Anja Seiffert, Das Problem wieder hier anzukommen – Einsatzrückkehrer und Gesellschaft, Marcel Bohnert & Björn Schreiber hrsg., Die unsichtbaren Veteranen: Kriegsheimkehrer in der deutschen Gesellschaft, Miles-Verlag, 2016, S.127~128.
(5)  Seiffert, S.130.
(6)  交戦経験のある帰還兵の26%は、自分が経験したことについて誰とも話しておらず、44%はパートナーや家族とそのことについて話すことができないか、その意図がない。Seiffert, S.132.
(7)  Jerg-Bretzke, S.185.
(8)   Karen Haak, Wenn die Worte fehlen, Marcel Bohnert & Björn Schreiber hrsg., Die unsichtbaren Veteranen: Kriegsheimkehrer in der deutschen Gesellschaft, Miles-Verlag, 2016, S.225~237.

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