◆商店への影響

電力不足は小売業にも深刻な打撃を与えている。 生クリームを使うケーキ店では冷蔵のための電気は不可欠だ。ガザ市内でケーキを製造しているアハマド・アムシャ(32)が怒りを露わにして訴える。 「電気が来るのは1時間だけ、しかも夜です。私は早朝6時に店にくるが、まったく電気がない。店を続けるために発電機を使うしかないんです。朝6時から夜の9時まで使うと、1日に500シェケル(1万6千円)もかかってしまう。

電気がないと、売れ残ったケーキは、捨てなければいけないんです」 「以前はいくらか利益が上がったんですが、今は燃料代と水代、それに職人たちの給与に消えてしまいます。職人たちを露頭に迷わせるわけにはいきませんから。

私の店はよく知られているんですが、電気がなければ店は続けられませんよ。この電力不足でガザのあらゆる商店やビジネスは悲惨な状態です」 仕立屋のムーサ(32歳)は仕事を続けられるかどうかの瀬戸際だ。電気が2時間ほどしかこなくなってから収入は激減した。

「停電のために私の収入のうち3分の2は発電機の燃料に消えてしまいます。つまり50シェケル収益が上がっても、30~35シェケルは発電機のために消えてしまうんです。こんな状態が続いたら、もう店はやっていけません」 ドライクリーニング店を営むファトヒ(仮名)は発電機を使う余裕がないために、電気がくる2~3時間の間しか仕事ができない。アイロンかけなど電気がなければ作業のしようがないからだ。

しかも電気がくるのがいつになるかもわからない。 「夜中の1時、2時に電気がくれば、この職場にやってきて、仕事を始めるんです。その短い時間でやれるだけの仕事を片付けるんです。2~3時間で仕事をやっていけるのかって?実際、今の状況が続けば、このままやっていけません。

ほとんどの店は閉めざるをえなくなるでしょうね。私たちのこの店は賃貸で、この地区はとても高いんです。店でずっと電気がくるのを待ってるんです。こんな状況はもう限界です」 暑い夏に冷凍保存が不可欠な精肉販売業も、営業を続けられなくなるほど困窮している。 「お客さんの需要も激減しているよ。

家庭でも冷蔵保存できないために、客はその日に必要な分しか買えないんだ」と言うのは、ガザ市内のマーケットで精肉業を営むラミ・セファ(30)だ。 「売れ残りは捨てるしかない。だれも補償はしてくれない。冷凍庫は空で、今じゃあ倉庫になってしまっているよ」 冷凍魚と肉類を売るアウニ・アブエルクテ(64)は、停電した冷蔵庫の中の魚を取り出して叫んだ。

「見てくれ!この魚は凍っていなければならないのに溶けてしまっている。豆類も肉も溶けてしまった。金を失い、品物を捨てるか猫にやるしかない。これは生活ではない」 「店を閉めた方がずっといいけど、俺たちは仲買人や家族に責任があるからそうもいかない。市当局には毎月電気料金を払わなければならない。

いったいどこから金を得ればいいんだ。もし支払わなければ、警察が捕まえに来るし。これが生活って呼べるかい?この政府は大惨事だよ」。 もう1人の精肉店主ワフィ・ソアウディ(34)もハマス政府への怒りを露わにする。 「保健省の奴が店の検査にやってきて『衛生の管理を自分たちで責任をもってやるように』と言うんだ。

でもガザ地区を治め責任があるお前たちが、店に電気をきちんと提供しなければならないはずじゃないのか!父親が家族全員に責任を持つようにだ」 「俺たちはロンドンやパリでのような生活を望んでいるんじゃないんだ。ただ生活に欠かせない電気と水が欲しいだけなんだよ。

人として尊厳のある生活を送りたいんだ。とくに子どもたちには尊厳をもって生きてほしいだ」 「電力不足で、ほとんど収益がない。売れ残った肉は、犬を飼っている人に電話して引き取ってもらっているありさまだ。従業員も月に3週間だけしか仕事がなく、後の1週間は家で待機させる状態なんだよ」 (続く)

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