教師は宗教指導を受けさせたうえ、バグダディ指導者に忠誠を誓わせた。一方、失職や解雇で生活が困窮したり、町から脱出する教師もあいついだ。

ISの拠点都市だったラッカは2017年10月、クルド主導勢力が制圧。市内には戦闘で破壊された建物があちこちに広がる。(2018年・玉本撮影)

ラッカ市内のダライヤ地区では、近所に住むある女性教師の収入が途絶え、隣人たちが小さな地下学校を作った。子供たちをこっそり家に集め、授業を続けてもらい、教師の生活を支えた。内戦で経済は破綻し、誰もが生活苦だったが、互いに助け合った。

「学校に行けないから、毎日、家で書き取りをしていた」。

当時、勉強を続けた小学生アリ・ヒシャムくん(8)はノートを見せてくれた。鉛筆で一生懸命に書いたアラビア語の文字が並ぶ。ISに見つかれば処罰されかねないなか、住民は教師を支えた。

ひそかに隠れ教室で勉強を続けたアリ君(左)と妹。この地区で失職した女性教師を支えるため、隣人たちが隠れ教室を開き、子供たちを通わせた。(2018年・玉本撮影)

ウベイ・ビン・カーブ中学校の生徒たちは、いくつものつらい経験を語ってくれた。

「家族が戦闘に巻き込まれた」「父がISにスパイの疑いをかけられた」。

ウィア・マレハさん(15)は、あいつぐ空爆で親族あわせて41人を亡くした。最後に先生が付け加えた。「私も父と兄妹の5人を爆撃で失いました。住民の誰もが犠牲者です」。

再開されたラッカの学校の女子中学生。IS支配下、学校に行くことはなく、家でじっとしていたという。(2018年・玉本撮影)

授業の最後、女子生徒のひとりが私のために歌ってくれた。戦闘激化で、ラッカから避難した先のキャンプで広まった歌という。

「私の心は焼かれそう、ラッカよ、あなたに会いたい。家族の団らんがあったあの日に戻りたい。ああ恋しいラッカよ」。

その美しい歌声は、いまも私の心に響いている。

ウベイ・ビン・カーブ中学校の授業風景。ラッカはシリア政府軍、ロシア軍、有志連合の空爆に加え、激しい戦闘にさらされ、ほとんどの生徒が家族や親戚を亡くすなどしていた。(2018年・玉本撮影)

(※本稿は毎日新聞大阪版の連載「漆黒を照らす」2019年10月1日付記事に加筆したものです)