大阪・堺市は、2016年6月に起きた北部地域整備事務所の違法工事によるアスベスト(石綿)飛散から10年の節目になることを受けて隣接する保育園で当時ばく露した可能性がある元園児の健康管理を検討する専門委員会を開始している。そこで懸念されているのが、将来石綿関連疾患を発症した場合の補償対象とする疾病を減らす動きだ。(井部正之)

4月会合での対象疾病について議論があった際の議事録の一部

◆わずか10年でレントゲン読影へ

10年前の石綿飛散をめぐって園児らの健康リスクを検証した懇話会による2021年4月の報告書には、〈事故発生から10年経過後の2026年度以降、全ての名簿記載者に読影の実施についてご案内のうえ、希望者に対して健康診断等で撮影した胸部X線写真のアスベスト専門医による読影を行います〉(p64)と明記。4月から開始された新たな専門委員会(委員長:東賢一・近畿大学医学部教授)では、おもにレントゲン読影と今後の健康対策のあり方について議論するためもの。

同様事例である東京都文京区のさしがや保育園における飛散事故と比べると、堺市のこの事案は、そもそも作業がわずか数日で、グラウンドを隔てたばく露(あるいは屋外ばく露)のため、推定ばく露量はそれほど多くはない。市の懇話会による健康リスク評価でも、〈それぞれの曝露ケースのうち最も総曝露量が多い推計量であっても、生涯過剰発がんリスク10万分の1を大きく下回っており、100万分の1をも下回っていた〉とされ、〈何らかの対策をとるべきであると判断される生涯過剰発がんリスクを大きく下回っており、現時点では健康面での経過観察や健康管理等の対応を今後とる必要はないと考えられるレベルである〉と結論づけている。

それなのになぜ、わざわざ読影に踏み切るのか。

低濃度の石綿ばく露で発症するとされるのは中皮腫(肺や心臓などの膜にできるがんで、非常に予後が悪い)だが、環境再生保全機構によれば、「潜伏期間(初めての石綿ばく露から発症までの期間)は40~50年と非常に長く、20年以下は非常に少なく、10年未満の例はありません」と説明されている。

船舶内の石綿作業や大阪・泉南地域などの石綿紡織など、現在ではほぼ考えられない、きわめて濃度が高い作業でなければ、わずか10年で健康被害が発生するなど、まず考えられない。いまの段階で胸部X線写真の読影などしてもまず意味はないだろう。

市に聞いたところ、「報告書に書いてあるので」(建築監理課)と言葉を濁した。

読影の結果、元園児や保護者が安心できる可能性もあるため、完全に否定まではしない。だが逆に心配が増すことも考えられ、丁寧な対応が必要だろう。

一応、高校進学後の健康診断で胸部レントゲン撮影があり、これを活用することから、追加の放射線ばく露は避けられるというのは安心材料ではある。行政の体面のために実施する健康調査で余計な放射線ばく露までするとしたら目も当てられない。

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