◆「みんなを笑顔いっぱいにしてやるわ」
メイクは仕上げに入った。際立たせたアイラインのまわりにちりばめられたゴールドがきらめく。妖艶さと迫力がいっそう増した。
「戦争してるさなかに、なぜドラァグクイーンなんかするのか、お前は軍隊に行かないのか、そんなコメントを私のSNSに書き込む人もいる。私が糖尿病を患っているから兵士になれないのを、みんな知らないから。私はいま、私にできる限りのことをする。それはステージに立つこと。私が私として生きている証しのためでもあるの。
そして、私のゴールはみんなを幸せにすること。ここでは誰もがストレスを抱えている。ミサイルや自爆無人機が爆発する音。愛する人が死ぬんじゃないかという恐怖。軍に動員されて前線に送られないか。ここにやってくるお客さんは、そんなストレスでいっぱい。ドリンクを飲んでいても心は閉じているのがわかる。
でもね、私のショーを観て思いっきり盛り上がり、ジョークに笑い転げ、ストレスが吹き飛んでくれるなら、これほどうれしいことはない。笑顔いっぱいにしてやるわ。みんな明日を生きていかなくちゃならないんだもの」
彼女はそう言って、ローズピンクの口紅をたっぷりと塗った。
ドラァグクイーン、ジーナ・スマイルの完成だ。

◆私のオデーサ魂
軽快なビートとともに、彼女がステージに現れた。張り裂けそうなミニスカートに、艶めかしい網タイツ。客をステージに上げ、ジョークでからむたびに、爆笑に包まれる。ポップ音楽にあわせ、巨体を揺さぶって踊るジーナのステージは圧巻だった。

ドラァグクイーンが芸術として社会で認められることが、彼女の願いだ。そして、次の若い世代に、この文化を引き継がせたいと考えている。
「私は、自由で陽気なこのオデーサの空気が好き。私の魂があるこの街に、ずっととどまり続ける。そして勝利の日を、絶対にオデーサで祝うの。そのときはあなたもきっと来てね」
ジーナは満面の笑顔で、小さな私の体を思いっきり抱きしめてくれた。


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