◆高市首相の答弁に潜む危険性
公安警察の情報収集活動を規制する法律は存在しない。すなわち情報・諜報機関の活動に法制上の歯止めがかけられていないのである。
同じような問題点は、国家情報会議設置法案の国会審議でも取り上げられた。本連載(2)でも述べたように、今年5月19日、参議院内閣委員会の国家情報会議設置法案に関する参考人質疑で、国家秘密法制の問題に詳しい海渡雄一弁護士(秘密保護法対策弁護団共同代表)は、「〔国家情報会議・国家情報局が〕どういう情報を取得してはならないのか、どういう活動をしてはならないのかを法案の中に書き込んでほしい。そうでないと暴走を避けられない」と訴えた(『しんぶん赤旗』2026年5月20日)。
しかし、そのような法的規制の条文は設けられないまま、国家情報会議設置法案は可決、成立した。高市首相は今年4月3日、国家情報会議設置法案が審議入りした衆議院本会議で、
「本法案は行政機関相互の関係を律するもの〔行政組織法〕であり、国民の権利義務に直接関わるような権限の強化等を行うものでない」と答弁し、情報収集に関して国家情報会議や国家情報局に「新たな権限を付与するものではない」ので、「情報機関による一般市民への監視が強くなる懸念は当たらない」と述べた。したがって、国家情報会議や国家情報局の情報収集活動を規制する条文は必要ないというわけだ。

しかし、行政法が専門の専修大学名誉教授の白藤博行さんは、この高市首相の答弁の背後に潜む危険性を、『しんぶん赤旗』(2026年4月11日)のインタビュー記事で指摘している。要約すると次のようになる。
高市首相は、「この法案は行政組織法であり、国民の権利義務の侵害を根拠づける行政作用法ではない」から、「何も心配ないとでも言いたい」のだろうが、「そこが曲者(くせもの)」だ。行政法には「組織法と作用法の区別」があり、行政組織法は「例えば内閣府設置法や警察法などの法律で、国家や地方公共団体の組織、任務、所掌事務」を定めている(『しんぶん赤旗』(2026年4月11日)。
国民の権利義務に関わる活動については、その「要件と効果を定めた行政作用法が不可欠」である。例えば「警察官職務執行法は作用法で、警察官がどのような権限行使をすることができるかの根拠法規」であり、「犯罪捜査については刑事訴訟法」が別にある(同前)。
この法案は行政組織法なので、「国家情報局に国民に対するあれこれの具体的な権限を与える」規定はないが、国家情報局には「秘密裏に広範に情報を集める任務・所掌事務」が与えられている。にもかかわらず「どんな時にどんな諜報活動をどのように行うのか、プライバシー等の個人情報をどこまで収集できるのか」が全く書かれていない。そこが問題だ(同前)。
この点について、「警察の情報収集活動の法的根拠と限界の議論が参考」になる。警察法は行政組織法だが、「第2条第1項で警察の責務を定めていること」から、「公共の安全と秩序の維持のため」であれば、行政作用法上の根拠なしに「非権力的な手段で行われる情報収集活動はできるというのが判例・通説」になっている。これに倣(なら)えば国家情報局も、国家情報会議設置法という行政組織法を根拠に、「行政作用法的根拠がなくても、国民監視の諜報活動はできること」になり、とても危険である(同前)。
まさに「大垣警察市民監視事件」をはじめ公安警察は、行政組織法でしかない警察法の第2条第1項の「〔警察は〕公共の安全と秩序の維持に当ることをもつてその責務とする」を根拠として、市民監視・情報収集・個人情報の保有などをおこなっている。
本来なら行政作用法上の根拠が必要なのに、あえてそれなしに行政組織法の拡大解釈によって活動しているのである。国家情報局もこの拡大解釈路線を用いる可能性が高い。このままでは市民監視・情報収集の強化につながってしまう。(つづく)
吉田敏浩(よしだ・としひろ)1957年、大分県出身。ジャーナリスト。著書に『ルポ・軍事優先社会』(岩波新書)、『「日米合同委員会」の研究』(創元社)、『横田空域』(角川新書)、『昭和史からの警鐘』(毎日新聞出版)など。























