高市首相は衆議院の国家情報会議設置法案の審議で、「普通の市民が調査対象になることは想定し難い」、「国家情報局が国民のプライバシー等を無用に侵害するようなことはない」などと答弁した。しかし、額面どおりには受け取れない。なぜなら、これまで公安警察や自衛隊の情報保全隊など情報・諜報機関の市民監視・情報収集によって、プライバシー侵害など人権侵害が実際に起きているからだ。(吉田敏浩/写真はすべて筆者撮影)

◆憲法違反の市民監視・情報収集の実態

情報・諜報機関による市民監視の代表的な事例のひとつが、「大垣警察市民監視事件」である。その発端は2013年から14年にかけて、当時、岐阜県大垣市で進行中の中部電力子会社シーテック社による巨大風力発電施設の建設計画だ。

この計画に、低周波被害や土砂災害などへの懸念から反対し、勉強会を開くなどしていた地元住民の三輪唯夫さん(養鶏業)、松島勢至さん(住職)と、発電施設問題とは無関係で脱原発運動や平和運動に関わっていた大垣市民の近藤ゆり子さん(市民運動家、元学習塾経営)、船田伸子さん(当時、法律事務所事務局長)に対し、岐阜県警大垣警察署警備課(公安警察)の警察官らが密かに監視・情報収集をおこない、氏名、職歴、学歴、病歴、住民運動歴、交友関係などの個人情報を、シーテック社に渡して情報交換・意見交換をしていたのである。

この情報交換・意見交換は警察側から呼びかけたものだ。シーテック社社員が大垣警察署を訪れ、同署別館3階の部屋で、2013年8月7日、14年3月4日、14年5月26日、14年6月30日の計4回開かれた。その「議事録」はシーテック社が作成し、保管していた。

監視・情報収集された当事者で「大垣警察市民監視違憲訴訟」の原告らも執筆した、『大垣警察市民監視事件』(「もの言う」自由を守る会編 風媒社 2025年)の表紙

公安警察側はシーテック社側に、風力発電施設反対の住民運動について、「大々的な市民運動へと展開すると御社の事業も進まないことになりかね」ず、そうした展開は「大垣警察署としても回避したい行為であり、今後情報をやり取りすることにより、平穏な大垣市を維持したいので協力をお願いする」などと述べていた。一連の市民監視・情報収集の背景には、市民運動を一方的に危険視する公安警察の偏った組織的体質があるとみられる。

この市民監視・情報収集の事実は、2014年7月24日、前出の「議事録」を独自に入手した『朝日新聞』(伊藤智章編集委員、渋井玄人記者)のスクープで初めて明らかになった。このような公安警察による市民監視・情報収集は、プライバシー侵害、人権侵害にほかならない。

監視・情報収集の対象とされた4人は、強い憤りとともに、ただちに岐阜県警に抗議し、謝罪を求めた。その同年7月31日付け「抗議・要求書」は、公安警察の行為について、「犯罪とは関わりのない市民を監視していたのみならず、得た情報を、特定の私企業に対し、その事業に反対する運動をさせないという意図を露わにして提供」したもので、「警察による住民運動潰し指南」、「警察と企業との不当な癒着」と鋭く指摘した。

そして、警察法第2条2項の規定「責務の遂行に当つては、不偏不党且つ公平中正を旨とし、いやしくも日本国憲法の保障する個人の権利及び自由の干渉にわたる等その権限を濫用することがあつてはならない」に違反しており、「日本国憲法下の警察が断じて行ってはならない行為」だと厳しく批判している。

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