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再びナイジェリア大使館をたずねた私は受付で、どうか大使と話をさせてほしいと話した。
ビザを取得するために必要な書類をそろえることはできないけれど、こちらの状況を伝えたうえで、改めてビザ取得の可否を判断していただきたいと、頼み込んだのだった。真っ向勝負の直訴、陳情。会ってもらえる算段も無かった。

それでも、そんな申し出をしてみようという気持ちになる雰囲気が、ナイジェリア大使館にはあった。手元の書類に目を落としながら耳だけで応対するような姿勢は無く、どのナイジェリア大使館でもこちらの目を見て用件を聴いてくれたことが、強く印象に残っていたからだ。

トーゴ・ロメのナイジェリア大使館の受付でも、私の唐突な申し出にじっと耳を傾けてくれた。「今は大使はいませんが、聞いてみましょう。」
それから1ヵ月後、大使との面会が実現した。1枚だけ持っていた襟付きのシャツを着て、大使館に向か
った。通された部屋には、国旗と、大きな平机と、穏やかな表情の大使。

「なぜあなたは、ナイジェリアに行きたいのですか。」まず、こう尋ねられた。
アフリカを広く自分で見てみたいがために旅を続けていること。風景の移ろいも感じ取りたいために陸路の移動にこだわっていること。ナイジェリアを迂回するには費用がかさむこと。

どのナイジェリア大使館においても応対が紳士的だったこと。ナイジェリアは危ない、ナイジェリア人は怖いといったウワサを、どうしても信じることができないこと。これまでにナイジェリアに対して考えたことすべてを、必死に説明した。
「あなたは、見知らぬ土地を独りで訪れることが怖くはないのですか。」

寂しいよりも、独りになりたいことのほうが多いくらいの旅が続いていることや、危険な目に遭わないよう心配りをしていることなど、ここまでの旅路で得られた実感をもとに、答えた。答えながら、熱っぽくなってきた。モロッコからここトーゴまで、様々な「普通」の風景が連なってきたことを、そんな風景を私が見ることができたことを、大使に伝えたかった。

「陸路入国するのなら、どこから入るのですか。」
ナイジェリアの治安について、私がどれだけ知っているかを試しているのだと感じた。これから訪れようという国の大使に、あなたの国の一部は危ないようですねと言うことにはとても躊躇したが、ナイジェリア南部はやはり犯罪が多いのだろうとの予測と、南部を避けるべくナイジェリア中部のヤシケラからの入国を考えていることを、先に立てた仮説とともに、洗いざらい話した。

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しばらくの間、私たちの沈黙が続く。
「南には行かないのだね。ラゴスは、行かないのだね」と、いろいろなことを確かめるように、大使は私の目を見つめた。「明後日にあなたの都合がつくならば、パスポートを取りに来てください。」
嬉しかった。ビザの給付にも増して、最後までこちらに向かい合ってくれた大使の姿勢が、嬉しかった。
後日私は隣国ベナンのニッキを抜け、約束通り、ヤシケラからナイジェリアに入国した。
(続く)