食事はいつも、その土地の食材を利用した手作りのもの(ドラケンスバーグ・南アフリカ 2017年/Drakensberg, South Africa 2017 撮影:岩崎有一)

南アはアフリカ諸国の中でも特異な存在だが、観光面においても同じことが言えよう。2014年に南アを訪れた外国人観光客数は900万人を超えた。これほどの観光客が訪れるアフリカの国は、ほかにない。そんな南アにあっても、ドラケンスバーグは同国内の他の観光地と比べると観光客は圧倒的に少ないまま今日に至っている。クリスの話を聴くことで私は、手付かずの自然がそのまま残されながらも、人間の営みが続けられ、かつ、町が衰退していない現在の状況は、ぎりぎりのところで保たれていることを知った。

熱気球に乗り、朝陽を迎える。眼下には畑が広がる(ドラケンスバーグ・南アフリカ 2017年/Drakensberg, South Africa 2017 撮影:岩崎有一)

どこに居ても居心地のいいドラケンスバーグだが、ここには、自然美以外の心地よさが私にはあった。南アに滞在していると目にする、塀に囲まれた集落が、ドラケンスバーグにはない。

南アの大都市に飛行機で降り立ち、宿泊先まで自動車で移動すると、トタン屋根の簡素な家々が密集する集落をいくつも通り過ぎて行くことになる。タウンシップだ。アパルトヘイト時代に黒人居住区として設置されたタウンシップは、今もそのまま残っている。もちろん現在は、誰にも居住の自由があり住む場所を選ぶことはできるが、タウンシップでの生活を余儀なくされている貧困層は少なくない。白人層が暮らす西欧となんら変わりのない美しい家屋と、簡素な家々が密集し、かつ、高い塀と有刺鉄線に囲まれた風景が交互に目に入ってくると、つらい歴史と、今も続く格差を考えてしまう。

そんな南アにあって、ドラケンスバーグには、タウンシップが無いのだ。正確には、白人層のそれと比べれば、傍目にもはるかに簡素な黒人層の家屋は多く、白人社会と黒人社会の格差は、残念ながらここでも感じざるを得ない。しかし、ドラケンスバーグでは、白人層の家屋と黒人層の家屋が混じり合うように点在しており、「居住区」も「集落を囲む塀」もない。ただそれだけのことに、私は晴れ晴れとした気持ちになってくる。塀がもたらす心理的な圧迫感は、部外者の私にも、迫ってくるものがある。

クリスが組んでくれたスケジュールには、一行だけ、観光目的ではない訪問先も記されていた。そこは、ドラケンスバーグに暮らす人々の生活を知るための訪問先だった。(続く5 >>

<岩崎有一/ジャーナリスト>
アフリカ地域に暮らす人々のなにげない日常と声と、その社会背景を伝えたく、現地に足を運び続けている。1995年以来、アフリカ全地域にわたる26カ国を訪ねた。近年の取材テーマは「マリ北部紛争と北西アフリカへの影響」「南アが向き合う多様性」「マラウイの食糧事情」など。Keynotersにて連続公開講座「新アフリカ概論」を毎月開催中。2005年より武蔵大学メディア社会学科非常勤講師。
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