西サハラ問題は、「忘れられた紛争」とも呼ばれることがある。
アフリカ北西部の「西サハラ」と呼ばれる地域では、1975年にモロッコが入植を開始して以来、帰属の定まらないまま、今日にいたっている。

西サハラは、よそ行きの顔をした紛争地とも言えよう。
モロッコにおいて西サハラ問題に触れることは最大のタブーであり、その実情を知ろうとするものの入域は拒まれてきた。また、西サハラの民が声を上げれば、当局による弾圧が待っている。現地を訪ねても、見えてくるのは「モロッコの一部として繁栄する西サハラ」ばかりだ。西サハラの内実を知ることは、難しい。

実は、日本との繋がりもある。日本に流通するタコの2割強が、西サハラの海でとれたものだ。タコを介して、私たちは西サハラと繋がっている。

2018年、西サハラのモロッコ占領地を訪ねた。15年ぶり、4度目となる。そこには、モロッコ化されつつある姿と、モロッコ化されることのない声が同居する西サハラがあった。
占領開始から44年が経つ現在の西サハラ各地の姿と声を、報告する。

◆昔と変わらない風景を抜けて

モロッコのカサブランカ空港でレンタカーを受け取り、南を目指した。
アトラス山脈をかすめながらマラケシュを通り過ぎ、港町アガディールで潮風をあびる。「砂漠の扉」と呼ばれるゲルミンを抜けると、しだいに砂景色が広がり始めた。『星の王子様』の作者サンテグジュペリがかつて滞在していたタルファヤでひと休みし、また、南へ。この先は、街をのぞけば、砂と道しか見えない景色がひたすら続く。

モロッコの玄関口カサブランカに降り立つ。(ムハンマド5世国際空港・モロッコ/Mohammed V International Airport, Morocco 2018 撮影:岩崎有一)

観光客で賑わうアガディール(アガディール・モロッコ/Agadir, Morocco 2018 撮影:岩崎有一)

タルファヤにあるサンテグジュペリの記念碑(タルファヤ・モロッコ/Tarfaya, Morocco 2018 撮影:岩崎有一)

 

道沿いのドライブインに入ると、車体後部にキャンピングカーを付けた、フランス人老夫婦の車が停まっていた。砂漠でのバカンスを楽しみに来た観光客だ。
コーヒーを飲みながらぼうっと道に目をやっていると、南側から大型トラックがのっそりと走ってくる。そのトラックを、荷物を満載した西欧の旅行者のバイクが、ビュンッと追い抜いていった。車の往来がやむと、冷たい風に飛ばされる砂が、サラサラと路面をかする音だけが聞こえる。
次のページ: 休憩を終えて、さらに南を目指す...