「まずね、イラン政府は性急な結論を出さないで、戦争でも核開発停止でもない選択肢を模索するだろうね。それともう一つ、アメリカがイランを攻めることはないと思うよ。イラクとアフガニスタンであれだけ苦い経験をしてるんだから」

「そうでしょうか。アメリカがイラク攻撃をほのめかしていたとき、世界中は、アメリカはアフガニスタンで手いっぱいだからと、イラク攻撃には半信半疑でした。しかし、結局アメリカはイラクを攻撃しました。イラン人は少し楽観的すぎやしませんか?」

「イランは、イラクともアフガニスタンとも違う。イランの団結や軍事力、地域諸国とのつながりは、アフガニスタンやイラクの比じゃない。さっきも言ったけど、イランは改革派と保守派で分裂しているわけじゃない。冗談でアメリカが来てくれたらなあなんて言ってる若者たちだって、ひとたび侵略者が攻めてきたら、きっと銃を持って戦う。この団結と軍事力に対し、アメリカは勝利できない」

私はモフセニーさんの話を聞きながら、以前に何度も似たようなやり取りを繰り返してきたことを思い出した。核問題だけに注目していると、つい全体が見えなくなってしまう。本当はイラン人にとって、イラン核問題に対するアメリカの横槍など、これまで繰り返されてきた言いがかりの一つにすぎないこと。アメリカの言い分などいちいち聞いていたら何も出来ないこと。アメリカの真の目的がイスラム共和制の崩壊であること。

これらアメリカ政府のイランに対する根本的な悪意を、イラン人は既存の事実として受け入れてしまっているのだということを、私はようやく思い出した。
散歩を終えて宿舎に戻ると、ジャアファリーさんが暇そうにテレビを見ている。モフセニーさんが私とのやり取りをかいつまんで説明すると、ジャアファリーさんはやおら起き上がって、我が意を得たりといった顔で語り始めた。

「そうさ、アメリカはイランには勝てない。アメリカだってよく分かっているはずさ」
「アメリカにそれだけの分別があればいいんですけどね……。だって、アメリカって結構目論見違いの失敗を繰り返してますよ。イランの団結や軍事力だって、しっかり把握しているかどうか、怪しいもんです」
「いいさ、仮に攻めて来たら来たで、戦うだけだ。それが正義だ。国を守るために戦うこと以上に尊い行いはない。そうじゃないか? イラン人の意識は、間違っているか?」

「いえ……。イラン人はみんな、イマーム・ホサインなんですね」
私がそう言うと、
「よく分かってるじゃないか!」
と二人は満足げに笑った。
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