だが、何度も真剣に無実の訴えを聞かされた警備隊員は、「この人たちは本当は立派な人たちなんだ」と、彼らの人間性にすっかり感服し、「この人たちのしようとしていることは正しい。将軍様に申訴が届き、疑いが晴れれば、この人たちは今後大きな仕事をする人たちだ。そうだ。私がこの人たちを助けなければ」と決心するに至ったという。

※「管理所」では中央クラスの幹部達が「革命化」により出たり入ったりするため、「管理所」の「隊内民」は心穏やかではないという。例えばある罪人を殴打せよという命令を受けたとしても、命令の遂行に躊躇する者も多いという。なぜなら、仮に殴った相手が後に解明され出所した場合、自分たちは何らかの形での復讐を免れないからだ。そのため、拷問せよとの命令を受けた兵士たちは、しらふではやってられないと、酒を飲んで対象者への拷問を加えることもあるといわれる。

だが、この「申訴」を実現することは決して容易なことではなかった。
連絡係が指示されたとおり平壌に住む人物にテープを届けても、テープは将軍様には伝わらず、どういう訳かXの元に届くのであった。将軍様がXに全幅の信頼を寄せていたため、なかなか上手くいかなかったのだ。
「一号申訴」を出したことがばれた者たちは「教養所」へ連行され拷問を受けた。
だが、他に社会復帰の手立てのない彼らは、再び録音をして、「一号申訴」を試みた。今度は運よく金正日将軍様の手に届いた。Xよりも先に中央党組織部の行政課長(注4)の手に渡ったためだという。届けられたテープを一通り聴き終わった将軍様は、国家保衛部の検閲事業担当者にこう指示したという。
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