そこの安全部長だった人から直接聞いた話では、彼らは懲罰を受けるようなことは何もしていなかった。将軍様の側近である某権力者Xが、自分の行った不正腐敗の内実を知っている者たちを消し去るために仕組んだ事件だったという。Xは以前から密かにその機会をうかがっていたらしい。

一方、それなりの権力を持っていた19部の連中たちも、迫り来る危険を察知し、勇気を出して「一号申訴」(注2)を提出したが、すぐにXの知るところとなった。Xは「一号申訴」が届けられるルート上に自分の息のかかった者を送り込んでいたのである。
結局、「一号申訴」は、寝ていたトラを起こした格好となった。Xは労働党の中枢の組織指導部(注3)や国家保衛部にいる仲間とグルになり、19部の連中を永遠に葬り去ろうと企んだ。

もちろん、地位の高い幹部を「革命化」の名目で「管理所」に送り込むには、最高指導者である将軍様のサインと「方針」が必要である。19部の連中が何らかの対抗措置を打つ間もなく、「方針」は下されてしまい、彼らは家族もろとも「管理所」に送り込まれたのだ。
「18号管理所」に送り込まれた19部の関連者は、何が何でも「一号申訴」に成功し仇を討たなければならない、それ以外に自分とその家族が再び平壌に戻れる道はない、と決意を固めるようになった。

そして、「管理所」内で密かに自分たちの知るかぎりの真相を肉声で録音したカセットテープの制作を進めた。
さらに、「18号管理所」内の「教養所」の警備にあたっていた軍人たちを説得して協力を取り付ける一方で、外部との連絡を引き受けてくれる連絡係を確保した。連絡係を引き受けた警備隊員は、彼らの話を聞いた当初は、「こいつらは白いものを黒だと言い張るような奴らだ。こいつらに協力すれば自分も同じ穴のムジナにされてしまう」と思い、聞き流していた。
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