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【若者たちは、あっというまに蹴散らされた】(撮影:広瀬和司)

それは「ビハーリ、ビハーリ、靴磨き野郎、かかって来いよ!」という、いささか品のない野次だった。インドの東にあるビハール州は、インドでも最も貧しい州だ。

貧しいが故に、人びとは州外に出稼ぎに出なければならず、ビハール人は低賃金で働く安い労働力の代名詞なのである。
路上で靴磨きを稼業にしている者も多い。

また、兵士としては練度が低いCRPFはビハール人を始めとする貧しい層出身がほとんどだ。「ビハーリ」という野次は、言うなれば“貧乏、貧乏”と子供が囃し立てるようなものである。

若者を中心とした人びとは、年長の者が列の前で投石をしないように指示をして、少しずつCRPFとの距離を縮めていった。彼らが橋の半分も渡ると4、50人のCRPFの一隊も道をいっぱいに広がって隊列を組んで進んできた。両者はすぐ対峙して睨み合うことになった。

どうなるのか、と思った瞬間、CRPFが若者たちに襲いかかった。若者たちもそれを予期していたようで、素早い出足で逃げる。ゴム弾や催涙弾の発射音が連続して木霊する。CRPFの騙し討ちのようなやり方に、私も、これでは嫌われるはずだよな、とため息をつくしかなかった。

ただ、前日に下町でCRPFの兵隊1人が、警備の合間に買い物をしている時に、至近距離から何者かに撃たれて殺されていた。そのことが、より彼らを攻撃的にさせているのかもしれなかった。

CRPFの兵士は貧困層が多い、と前述したが、話をしてみると人柄は素朴な者も多く、現地の人と仲良さげに話している光景もまたよく目につく。だが、兵士たちはなぜカシミールの人びとがインドの支配を嫌うのか、知らない。兵士にとってはカシミールの人びとは自分たちの身と国に危険を及ぼす暴徒でしかない。そして、朴訥、従順さは裏を返せば、命令によって一気に攻撃性に転化する。
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