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【逃げ遅れた若者が捕まった】(撮影:広瀬和司)

陰謀説を支えるもの
騒動が一段楽すると、近くのヒンドゥー寺院を警備するCRPFの将校に呼ばれた。CRPFと話をしていると、現地の人の誤解を招きえないので躊躇していたのが、何度も呼ぶので行ってみた。

すると、開口一番に「なぜ、あんな連中のことばかり取材するのか。俺だってここで立って警備しているだけで殴られたんだ」と頭や手、肘、にある新しい傷跡を見せ付けてくる。どうすればいい?ただ殴られればいいのか?お前だったらどうする?」と畳み掛けてくる。

「あなた達は武器を持っているし、丸腰の市民とは立場が違う。それになぜ彼らが怒っているのか、わかっているはずだ」と言い返した。「いいか、彼らはパキスタンによって操られているんだ。暴徒の中にISI(パキスタンの情報機関)の要員がいて、煽っている。金を撒いてやらせているんだ。証拠もある。それに、あの中にゲリラがいたらどうする?」と言ってくる。

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【兵士たちがデモを排除するのに使うゴム弾。かなりのスピードで飛んでくる。
先週には心臓にこのゴム弾が当たり、死亡する例があった】(撮影:広瀬和司)

私からすれば、現在の運動に対するパキスタン陰謀説は荒唐無稽な話だ。確かに活動家団体やゲリラのなかにパキスタンから支援をされているのもある。

しかし、今のカシミールの人々はパキスタン帰属には全く否定的だ。デモでパキスタンを賛美するようなシュプレヒコールを言おうとして、嗜められているのを、何度か見たこともある。

パキスタンは独立後も軍事政権が長く、民主的な政権ができても腐敗ですぐ失脚してしまう。パキスタンとは宗教的、文化的つながりは深いが、カシミールの人びとが欲しいのは自由であり、民主主義であり、人権だ。そのいずれもパキスタンにないのはわかっているからだ。

話を聞いていると、将校はパンディットと呼ばれるカシミール土着のヒンドゥー教徒だった。
知識人という意味のパンディットは、高位カーストのブラーマンで、古来から高い教育を受けており、インドでも有数の社会集団である。

インドの首相だったJ・ネルー首相も出身はインド東部のアラハーバードだが、その血筋はカシミール・パンディットである。カシミールの中ではマイノリティだが、一方で文化や歴史の上では重要な位置を占めてきた。

そんなパンディットたちの状況が変わったのは、武装闘争が勃発して90年の初めにパンディットたちがイスラム教徒のゲリラに殺され始めたからだ。大量虐殺があったわけではなかったが、マイノリティである彼らの恐怖心を煽るには十分だった。
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