韓流ドラマは北朝鮮内の闇市場でよく売れた。儲かるのだから商売人たちは、新作をせっせとコピーしては密輸し、北朝鮮内に流通させた。もちろん、北朝鮮の警察当局は、「不純録画物撲滅」キャンペーンを繰り返し行って取り締まりを強めた。

しかし、いかんせん、取り締まる側の警察官たちも、韓流ドラマが見たいのである。今でも摘発は徹底できないままである。
このように、北朝鮮内部には人の好奇心に根ざした需要が、「情報の闇市場」を生みだしたのだ。その力は、厳しい統制を乗り越えて、金正日政権がもっとも警戒していたはずの、韓国の映像を大量に北朝鮮内に持ち込ませ、流通させるという事態を生みだしたのである。

なぜ、金正日将軍様を尊敬しなければならないのか
密かに見られてきた韓国の映画・ドラマは北朝鮮の人々の政治意識に大きな影響を与えている。そこに映っていたのは、かねてから政府が宣伝してきた「貧しく抑圧された南朝鮮人民」ではなく、「豊かで堂々とした韓国人」だったからだ。
金大中(キム・デジュン)―盧武鉉(ノムヒョン)政権の対北抱擁政策もあいまって、北の人々の韓国に対する伝統的な警戒心は見事なまでに溶解しており、今では豊かで自由な国・韓国は、憧れの対象にすらなっている。

都市部の若者の間では、連続ドラマの最新作を早く見たことが自慢になり、ドラマの中の、ソウル言葉の柔らかい言い回しをまねするのが流行っているというから恐れいる。

北朝鮮政権の人民統制の力の源泉は、権力が独占する食糧配給制度にあった。
それは「食わしてやるから言うことをきけ」というシステムだった。
配給制が麻痺してしまうと、民衆は食べるために原始的な市場を作って活動を開始した。

非合法なのを知りつつ、市場で労働力を売ったり、商行為に走り回ったりすることで、北朝鮮の民衆は自力で飢餓から脱し、この10年間、間違いなく生活水準を上げてきている。
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