訓練中の国境警備隊。幹部たちによる食糧横領のため、若い末端の兵士は痩せている者が多い。朝鮮の兵役は10年に及ぶ。(2003年9月両江道恵山市郊外 中国側より石丸次郎撮影)

 

23歳青年が考える祖国の発展の条件 3
これ以上の人権侵害は社会を不安に陥れる
キム 私はあなたの質問に答えながら、(人権と関連して)こんなことを思い出した。
今はずいぶん減ったけれど、九九年ごろまでは走る列車の屋根の上に、人々がびっしり座っている有様だった。頭のすぐ上には高圧電線が走っているので、屋根の上に乗った人はどんなことがあっても体を低くしていなければいけない。

だが、長く座り続けていると、中には集中力が途切れてきて、うっかり頭をもたげ高圧電線に触れてしまう人もいる。そうなれば即死だ。
そうして列車から人が落ちていくのを、われわれは間近で直接見てきた。こういうことは、実際に経験した人間でないと想像もできないだろう。

以前、病院で知り合った若い韓国人が、ご馳走してくれるというので後日会いに行って、こういったことを話したことがあるんだが、その時彼が言った言葉が頭に焼き付いている。

その人は「自分が恥ずかしい」と言う。「恥ずかしいことなんて何もしていないのに、どうしてそんなこと言うのか?」と尋ねると、「自分は朝鮮のそんな現実を想像すらできず、あれこれぶしつけな質問をしてしまった」と言うのだ。私にそんな話をさせたことが恥ずかしいというわけだ。その時、私は思った。

「ああ、韓国の人たちは、こういう話を聞いたことはあっても、切羽詰った現実問題として、受け止めることがなかなかできないのだな。公開された写真を見て、伝わってくる話として知っているだけで、現実に起こっている話として心に刻まれてはいないんだ」と。
リム 朝鮮の現実を撮った写真も少しずつ出回ってはいるが、困難期の記録があまりに少な過ぎるんです。こういう胸の痛む話はきちんと記録されなければいけないのですが。

キム 中国でインターネットを見たとき、コチェビ(ホームレス)の写真なんかがアップされていた。
今は九八縲恚繼續N度に比べると、随分ましになった。どうしてよくなったかというと、外部からの支援があったせいもあるだろうが、あの時期を克服し耐え抜いて、われわれ民衆の生命力が強くなったためなのではないかと思う。国内のどこでも、住民たち皆が自力更生で暮らしている。仕事もないのに、国から金を出せと言われれば、自分で何とか稼いで金を納める。といっても国は住民に何もしてくれない。今はそういう時代だ。

だが、そうして収めた金は一体どこへ行ったんだ? まったく解せない。軍隊に回っているというが、軍では未だに栄養不良で体調の悪い兵士がたくさんいるっていうし。
次のページへ ...

★新着記事