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国境を越えたら新世界が待っている、ということはアフリカでは少ない。風景を構成するひとつひとつが、少しずつグラデーションしながら変化していくのが常だ。晴れて入国しても新鮮味が少ないとも言えるのだが、この国境はちょっと違う。

ロッソという町を目指して、私はモーリタニア西部を南下していた。モーリタニアは国土のほとんどを砂漠が占める国。どこを向いても白い砂景色が延々と続く。首都においてもいたるところに砂溜まりが見られ、砂漠のシンとした無音の世界を思わせる静けさが、街をも包んでいる。

西部を南下していても相変わらず砂景色一色だが、南下するにつれ、この「一色」が白から赤茶に変化してくる。白に慣れた目には真っ赤と言ってもいいほど。ロッソまで10kmを切ると、風景はさほど変わらないのに、強い生命力を伴うものを全身に注ぎ込まれたような感覚に包まれた。

水の匂い、である。乾いた砂埃を数週間吸い続けていると、水の匂いはプールの塩素の匂いのように強く尖って感じられ、また、夕飯時に家から漂う食事の匂いのように、安心と充足感を想起させられる。ゆったりと流れるセネガル川が、周囲に水の匂いをぷんぷんと漂わせていたのだった。セネガル川は国境の川。モーリタニアとセネガルが南北に接している。ロッソは、このセネガル川に面したモーリタニア側の国境の町だ。

ロッソに到着後は、フェリーに乗って国境を越える。船上では、セネガル人とモーリタニア人がデッキにべたっと大人しく座り込んでいた。およその国に行く人とおよその国から帰ってくる人が共存した、どこかよそよそしい静けさ。私がカメラを取り出してニッと大げさに作り笑いをすると、やっと笑顔が見られた。船はゆっくりと、川上方向に船首を向けつつ、セネガルを目指す。

対岸には背の高い木々が生えている。木々。モーリタニアではあまり目にすることはない。セネガルに近づくにつれ、大音量の音楽が聞こえてきた。続いて、女性のでっかい笑い声と奇声と物売りの声が、数人分ではなくて、たくさん。岸壁が近づいてくると、中古自動車特有の、エンジンオイルが混じった排気ガスの匂いとクラクションと、道端の露天で焼かれている肉からの煙と炭の匂い。

そして、船着場が見えるとともに、ざわざわと落ち着き無く動く真っ黒い肌の群集も見えてくる。目に耳に鼻に入ってくるすべてが、北では感じられなかったもの。明らかな別世界だ。セネガル入国というよりも、ブラックアフリカ上陸、との緊張感と高揚感が自ずとみなぎってくる。
自然も人も、この国境ではくっきりと切り替わる。西アフリカ、はじまりはじまり。