興奮を隠せないような口ぶりである。
私は、金正日は八月に倒れて脳の手術受け、現在は回復に向かっているという情報が世界を駆け巡っていると伝え、北朝鮮内部の雰囲気はどうですかと尋ねた。
「街の様子も人の暮らしも平常通りで変わったところはないけれども、幹部も労働者も、将軍様が建国記念日に登場しなかったことについて、いろいろ噂し始めている。

これから政治にいろいろ変化があるかもしれないと、「次の代」のことを言い始める人もいます」
Cさんの電話での報告は、北朝鮮の人々が、金正日の異変を既に敏感に感じており、早くも今後の政治の行方に関心が向きつつあることを示唆していた。
リムジンガンに掲載するための写真を撮って、シン・ドソク氏(仮名)が中国に出てきた。

咸鏡南道に住む私の取材のパートナーであり、ジャーナリストの卵だ。
北朝鮮はこれからどうなっていくのか、見解を尋ねた。
「1994年に金日成が死んだ時は、空が落ちてきたような衝撃がありました。『ああ、首領様も死ぬのか』と。
一方で、うんざりするような耐乏生活が続いていたので、あと10年経った頃には世の中も変わっているだろう、良くなるだろうと思ってたけれど、むしろ前よりどんどん悪くなった。

金正日が倒れた(と思われる)のだったら、いくらなんでも世の中変わってもらわないと。
密告が怖くてなかなか口には出せませんが、ほとんどの人はそう思っているはずです。

中国だって毛沢東が死んでようやく文化大革命が終わったでしょう?
朝鮮の中は、変化を期待するムードがどんどん高まっていくと思います」
北朝鮮の人々は、金正日が建国記念式典に出席できなかったことで、「金正日時代の終焉」が近づきつつあると強く認識したに違いない。
これまで、金正日の健康問題や身辺の異変についての情報は徹底して秘密に付され、国内でも噂話やアングラ情報の域を出ることがなかった。
ところがこの度は、2000万国民に対して、金将軍様に異変が発生したことを公式に認めたに等しいのである。

今後それを覆すためには、本人が国民の前に出て健在を示す他には方法はない。それができない限り、特権層から苦しい生活を強いられている庶民までが、「金正日時代の終焉」と、そしてポスト金正日の社会について考え始めるのは当然のことだと言える。
それでも北朝鮮の人々と今回話してみて、こんなに早くも意識がポスト金正日に向き始めていることに、私は驚きを禁じえなかった。
それだけ、政治と社会の変化を待望する気持ちが強いということだろう。
(つづく)

通常通り人と物資が行き交う中朝国境連絡橋 (2002年9月11日 アジアプレス取材班撮影)

通常通り人と物資が行き交う中朝国境連絡橋
(2002年9月11日 アジアプレス取材班撮影)

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