*   *   *
検閲員がやって来た!
支配人:検閲指導員さん、なんとか頼みますよ。(将軍様の)お言葉もあったじゃないですか。うちは金儲けしようと思って家の売買をしたんじゃないんです。

こないだも○○人民委員会の取締り部隊の連中がやってきて「おい、家の売買をしたな? われわれはちゃんと知ってるんだぞ」なんて言うもんだから、その時も「うちは売買なんかしてない。こういう事情があって家を交換しただけだ......。それに、正直言って、うちは金に不自由してないからね。それにしても、ここまでやらなきゃダメなのかい?」って言ったんですよ。そしたら、やつら、罰金払えって言うんです。
検閲員:ふむ

支配人:でも、罰金を払えば法務委員会に呼び出されます。そしたら司法処理されるじゃないですか。罰金を払えと命じられたって、いっそのこと、そのままにしておく方がましですよ。まったく、いじめやがって......。(注1)

検閲員:いじめてるわけじゃ......。
支配人:いじめですよ。正直言って、指導員さんの前だから言いますけど、うちは商売目的でやったわけじゃなく、お互いそれぞれの利害関係で......。

検閲員:今回の件はどういうことかというと、ある人が言うには......。ちょっとこれ見てください。(検閲員は鞄から住民からの通報内容が書かれた文書を取り出す)だから、法律にのっとって処理するしかないでしょう?

支配人:そんなもの、私には関係ありませんね。正直言って、国家がわれわれに何をしてくれるって言うんですか! 指導員さんまでそんなことおっしゃるなら、これ以上私から言う事はありませんね。

検閲員:いや、だから、われわれはある程度(支配人の事情を)理解できるんですがね。つまり、「家の件は処罰はしないでおこう、法律に反したことに関しては適当に処理して放っておこう」って、内々では話してたんですよ。そしたら「早く道の検閲局から出された指示どおり処理して、買った者は家から追い出し、追い出された家族は元の家に帰らせろ」と(上から)言われました。

これも(将軍様の)「方針」貫徹のためだから。正直、「方針」に基づいて執行すればそれまでなんだが、実際には、われわれ初級職員たちが現場に出て執行しようとすると、(住民たちの反発が激しくて)「方針」の通りに厳しくはできないんですよ。だから、国の法律に違反した度合いに合わせて、適当に処理するしかないんです。そうでしょう?
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