ぼろぼろの命 「若いときには最高人民会議代議員までやった私なのに…年をとると面倒みる人間もいない…。お前、そのトウモロコシもちをひとつだけくれまいか?」 「嫌だよ。おばあさんにあげたら、ぼくが飢え死にしてしまうよ。あわれな人間はおばあさんだけじゃないんだよ」 ―キルス(絵)

ぼろぼろの命
「若いときには最高人民会議代議員までやった私なのに…年をとると面倒みる人間もいない…。お前、そのトウモロコシもちをひとつだけくれまいか?」
「嫌だよ。おばあさんにあげたら、ぼくが飢え死にしてしまうよ。あわれな人間はおばあさんだけじゃないんだよ」 ―キルス(絵)

 

恐ろしい姿の大きなヘビが、シュルシュルと音を立てて目の前の草むらにあっという間に姿を消していった。生い茂った草をかき分けて草むらの中に入って行く勇気が出なかった。
[生き死にがかかっているこんな時に何を怖がっているの。もたもたしていてはダメ]

そう思って自分を励ました。腰の丈まである草をかき分けながら、一歩ずつ進んだ。まるで敵の陣中に入った不屈の勇士のように。
花びらが見えた。トラジだ。

私は安堵の息をつく間もなく、くわを振り上げ、地面を掘り始めた。くわは的を外れ、石に当たって火花が散った。石と木の根がからまった地面を掘るのは簡単ではなかった。なんとか掘り下げていくと、ようやくトラジの根が見えてきた。
けれども、根っこがあちこち切れてしまっているではないか。それ以上掘ろうとしたけれど、力が尽きて地面にしりもちをついてしまった。
「お母さんは見ていて。ぼくが掘るから」

子どもの慣れた手つきの方が、私よりもずっと上手だった。根っこをひとつ、傷をつけないで掘り出した。商品として価値があるように見えた。
「ごめんね。昨日は母さんが悪かったわ。お前の苦労がわからなかったね」
「おかあさん、ぼくたちはいつまでこのように暮らしていくの?」
「キルス!」

静かな山の中で私は息子の首を抱きながら、思いきり泣きに泣いた。
少しずつ高まる私たち母子の終わりのないむせび泣く声を、青黒い草むらがおおいつくしてしまっていた。
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