故郷を去るお母さん 「キルスの母さん、中国に行けばお腹いっぱい食べられるというから、先に行って、それが本当なら、必ず私らを迎えに来ておくれよ」お母さんが北朝鮮を離れるとき、涙を流して見送ってくれた近所のおばさんたち。けれど、お母さんはまだ約束を果たせないでいます。 ―ハンギル(キルスの兄)

故郷を去るお母さん
「キルスの母さん、中国に行けばお腹いっぱい食べられるというから、先に行って、それが本当なら、必ず私らを迎えに来ておくれよ」お母さんが北朝鮮を離れるとき、涙を流して見送ってくれた近所のおばさんたち。けれど、お母さんはまだ約束を果たせないでいます。 ―ハンギル(キルスの兄)

 

そのような姿をうらやましく見ていた私は、すぐにでも家に帰りたくなった。
けれど、帰ることのできる身ではない。山菜を採らなければ六人の家族が食事を抜かなければならない。

少しずつ強くなる雨脚に、下着までびしょ濡れになった。骨の髄までしみこんでくる冷たい風に、体中ががたがた震えだし、手がかじかんだ。それでも山菜を採りをやめるわけにはいかなかった。

雨に濡れて餅のようなになった泥が、足にべっとりまとわりつく。足を一歩動かすごとに、まるで罪人が重い鎖を引きずるような姿であった。
女たちはいつ顔に化粧をほどこしたことだろう。なぜだか、化粧をすると恥ずかしくなってしまう私たちだった。
しかし雨が降る日には、お金がかからない高級な化粧をして、人々を笑わせる。

顔にずるずると流れる雨水、涙、鼻水を泥だらけの手でこすると、お互いに、とてもきれいになったとひとしきり腹を抱えて笑うのである。
やっと夕方になって、人々はひとりふたりと立ち上がり始めた。私たちは自分の体よりずっと大きく重い山菜を頭に乗せたり、背負ったりしながら、丘を下り帰途に着いた。
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