それでも結局は金正日に対する忠誠競争
:なるほど、それでも保衛部、保安省、党などの頂点にいるのは金正日なのでしょう?
:そうです。先ほどの保衛部の話に戻りますが、金正日が社会を安定させようと保衛部を強化しようとしています。一方で、保安省(日本の警察庁にあたる)にも気を遣っている。保衛部ほどには優遇しないにしてもね。そうしておいて「それ、どっちが業績をあげるか競争しろ!」とハッパをかけるのです。

すると保衛部も保安省も金正日に良く思われようと必死になります。こうなるともうお互い周囲の事情なんて気にしません。なりふりかまわず何がしかの「成果」を上げようとするのです。朝鮮で何か一つでも「成果があった」というと、それは人民を搾取したということなんですよ。わかりますか?例を挙げると保安省で建設した「大同江果樹農場」という農場の名前を聞いたことがありますか?

:あります。今年6月に金正日が視察し、称賛したという平壌の郊外にある大きな果樹園ですよね
:そうです。これを保安省にですよ、人民の安全を守るべき保安省に、何の財産が、何の資材があってあのような農場を作れたと思いますか?あれは保安省が道、市ごとの全ての保安員(警察)たちに「無条件で必ず金を集めて来い、できない場合は容赦しない」と脅して出させた金で造られたのです。

力のある保安員は金のある人のところに行って、金を無理やり出させます。、また保安員本人の妻が市場で商売して集めたお金をかき集めて、上納することになるんです。

そうして建設された農場を見て、金正日は「よくやった!」と、保安省を褒めるわけなんです。そしてその一方で今度は保衛部に「ほれ、お前たちは何やってるんだ」と競争を煽るようなことを言うんです。すると保衛部もまたなりふり構わずお金をかき集めることになる...この繰り返しです

:忠誠競争ですね
:お金、資材は100%全て、下からかき集めてくるんですよ...一番困るのは誰でしょうか?

:人民たち...
:そう。人民にしてみればたまったものじゃない、結局金正日の行う政治のしわ寄せは全て人民に来ている、ということなんですよ。

もやしのひげを取る年配の女性と少女。農場から受け取る「分配」と呼ばれる一年分の穀物配給を去年はもらえず、暮らしは厳しいと語った。「分配」は収穫量と労働時間から算出され、一年に一度、農場に所属する農場員に配られることになっている。2010年6月 撮影 金東哲(キム・ドンチョル)(アジアプレス)

もやしのひげを取る年配の女性と少女。農場から受け取る「分配」と呼ばれる一年分の穀物配給を去年はもらえず、暮らしは厳しいと語った。「分配」は収穫量と労働時間から算出され、一年に一度、農場に所属する農場員に配られることになっている。2010年6月 撮影 金東哲(キム・ドンチョル)(アジアプレス)

 

李さんは北朝鮮社会の発展を阻む、金正日を頂点とした政治システムによって、結局、犠牲を強いられるのは民衆である現状を明らかにしてくれた。次回は北朝鮮の変革についての李さんの見解をまとめる。(整理:李鎮洙)
<<<連載・第4回   記事一覧   連載・第6回>>>

★新着記事