アタナシオス・マトーカ司教(80)はバグダッドで生まれ育った。「イラクのキリスト教徒はこれまで何のトラブルもなく平安に暮らしてきたのに。安全が確保されない限り、今後もキリスト教徒の流出は続くだろう」と嘆いた。(撮影:玉本英子)

 

イラク軍や治安部隊による武装勢力掃討作戦などで、宗派抗争はこの数年でようやく沈静化し、爆弾事件は激減した。しかしキリスト教徒への攻撃は収まらない。事件後も市内の6ヵ所でキリスト教徒の家が狙われ、7人を越える信徒が殺害された。

政府は教会への警備の強化を約束し、教会の周りに爆弾攻撃を防止するためのコンクリート防護壁を設置するなどしているが、教会に配置させれた警備兵は当初に約束された数の3割程度で、政府のキリスト教徒への対応の遅れは否めない。8年前のイラク戦争後、バグダッドのキリスト教徒は移住や避難するなどした者が多く、現在の実数は不明だが、事件後、およそ2割の信徒が治安の安定した北部のクルド自治区や国外に逃れたという。

事件後、サイダ・アル・ナジャッド教会での礼拝は行われず、信徒が祈りに訪れることはない。(撮影:玉本英子)

 

銀の大きな十字架を胸につけたアタナシオス・マトーカ司教(80)は、教会の施設に暮らし、外へ出ることはほとんどないという。
「アメリカ軍がイラクを攻撃したためにこんなことになってしまった。彼らにクリスチャンとしての心がなかったことが非常に残念だ。私たちは神の言葉である『汝の敵を愛せよ』を信じ、復讐はしない。ただ祈るのみだ」
と話した。
事件後、この教会で礼拝が行われることはない。イラクのキリスト教徒の苦難を伝えるための記念館になる予定だという。
【バグダッド 玉本英子】

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