フセイン政権の強制移住政策で土漠の中に作られた町は、下水施設など整備されていない。いまも行政機能の多くが機能していない。(ニナワ県ギルオゼール・撮影:玉本英子)

 

町の人口は2万5000人。土壁でできた家が立ち並び、通りは閑散としている。幹線道路も整備されておらず、収集車が来ないため、ゴミが路上に放置されたままだ。
路上にたむろしていた20代の男性たちは「仕事がない」と口々にこぼした。
若者層の95パーセントが無職で、北部のクルド地域に出稼ぎに行くか、農作業で月100ドルほどの賃金を得るかのどちらかしかない。クルド政府は「実効支配」を強めようと、クルド語教育のための小学校建設や治安警備などを担うようになった。

地元最大政党であるクルド民主党(KDP)シンジャル支部のセルベスト・バビリン氏(52)は、「歴史的にはクルド人の町で、住民たちのほとんどは発展したクルド地域への編入を願っている。だが、中央政府は町を手放そうとしない。譲歩すれば、キルクーク油田などがなし崩し的にクルド人のものになると懸念しているからだ」と話す。

町の周辺の村々にはクルド人のほかにイスラム教スンニ派やトルコ系住民が混住し、クルド地域編入への反発の声も強い。
フセイン政権崩壊から8年。ふたつの政府のはざまで、町も住民も置き去りにされていた。
【ニナワ県ギルオゼール(カハタニヤ)・玉本英子】
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