韓国ドラマに感動した北朝鮮民衆
VCDの価格は、販売される地方、映画の内容、それに統制の程度によって変わった。当時の朝鮮は、「苦難の行軍」のおかげで、人々が市場経済のシステムを少しずつ習得し、それを商売に生かすことによって、最も苦しい状況からなんとか脱し、ちょっぴり余裕が持てるようになっていた。その余裕のせいか、米国映画や韓国ドラマの需要の伸びと影響拡大の速度には、凄まじいものがあった。一般家庭はもちろん、保安署、保衛部、党、行政機関、それに軍部隊の将校、兵士に至るまで、韓国ドラマを見ていない人はいないと言ってもいいぐらいだった。韓国ドラマは朝鮮の人々を虜にしたのである。そして、特に若者の思想と精神に大きな影響を与えることになる。

当時、最も人気のあった韓国ドラマは、「秋の童話」(〇〇年KBS製作、主演ソン・スンホン、ソン・ヘギョ)、「オールイン」(〇三年SBS製作、主演イ・ビョンホン、ソン・ヘギョ)、そして前述した「天国の階段」などだったが、朝鮮の人々は、数多くの韓国ドラマに触れて心を揺り動かされ、何日徹夜を続けてでも見ようとした。停電が多いのが玉に傷だったが、「祝日特別供給」として一日中停電のない金日成や金正日の誕生日などは、その日を逃してはなるまいと、皆、テレビにかじりついたものだった。ただ、ただストーリーに泣き、笑った。韓国ドラマを見ることは、しんどい日常のすべてを忘れさせてくれる最高に幸せな時間だった。

私自身、初めて韓国ドラマを見たとき、噂でしか知らず会ったこともなかった韓国人の姿や暮らしに、本当に大きな感動とときめきを覚えた。一方、同じ民族の社会が二つに割れてしまっていることに胸が痛んだ。そして、われわれはなぜ韓国のように暮らせないのか、資本主義社会の何が悪いのか、朝鮮で受けてきた思想教育とは何だったのかなど、多くのことを改めて考えずにいられなくなった。同時に、朝鮮の制度に反発を覚える契機となった。朝鮮の多くの人たちも、何が民主主義なのか、何が人権尊重なのか、そして真に国民のための政治とは何なのかについて、韓国ドラマから多くのことを学び考えたはずである。

韓国ドラマに登場する主人公たちは、しんどくてうんざりする境遇でも、明るくさっそうとしていて、いつも前向きに一生懸命生きていた。そんな姿を見た朝鮮人の中には、われわれもあのように暮らしていかなきゃならないと感じた人が多かったと思う。

そんな感傷に浸りながらドラマを見ている時に、誰かがドアを叩くことがあった。その場にいる人間はすぐさま要領よくVCDを隠す。皆それに慣れていたし、役割分担も決まっていた。そんな時の人々の動きの早いこと、早いこと! その瞬間に、韓国の暮らしを空想して夢心地にあった人々の頭は、朝鮮の厳しい現実の中にいることを思いだしスイッチが切り替わるのだった。

取締り官たちは、夜遅くまで電灯を点けているなど、少しでも不審だと感じた家に対しては、夜中の何時であろうが容赦なく家宅捜索した。それで、人々は夜になると、明かりが外に漏れ出ないよう、窓に毛布をかけるようになった。そして、見つかれば大きな罰を受けると知りながらも、皆ドキドキしながら、麻薬中毒患者のように韓国ドラマを見続けるのである。
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