朝鮮の「本当の事情」
海州市内にある三つの市場のうち、ヨンダン洞にある「東市場」に出かけた。7,8年前に建て替えられたもので、立派な作りだ。屋根付きの売り場に座っているのは百数十人といったところだろうか。ほとんどの売り場が埋まっている。他にも市場の敷地内の地べたに座って、自転車や生活用品の修理業をしているお年寄りたちがいる。海辺ということもあり、貝や海藻など海産物が多く売られている。

海州市内のゴミ捨て場でゴミを漁るきょうだい。右の壁には「汚物」と書かれている。(2008年9月 シム・ウィチョン撮影)

 

やはり目についたのはコチェビだ。市場内をうろついていたのは10数名ほど。彼らは生きていくのに必死だ。ソバや簡単な汁物を出す屋台で食べている人が食べ残したものをさっとかきこみもすれば、物欲しそうな顔で食べている人をじっと見つめ恵んでもらおうとする。この日は寒かった。私はかわいそうでいたたまれない気持ちになり、10歳くらいに見える子を呼び寄せ、おから汁を食べさせてあげた。この子たちはあの手この手で生き延びている。

今の時期なら、捨ててあるカキなど貝の殻に残ったわずかな身をこそぎ落として、腹の足しにしている。港に停められている木造船を壊して、板切れをお金に換えている子もいるという。いよいよ追い詰められればスリもする。泥棒やコチェビになっても、はしっこい者しか生きていけなくなっているのが、今の朝鮮だ。

市場をぶらぶらしながら、食糧売り場の辺りに来ると、言い争いの最中だった。どうやらコメが濡れている、いないで揉めているらしい。売主がコメに水分を含ませ目方を増やすのは、そう珍しいことではない。値段を見ると国産のコメには3500ウォン、トウモロコシには1800ウォンほどの値段が付けられていた。売り手の女性によると、金正日が死んですぐの頃は商売が禁止され、取締りを恐れたコメ商人たちは10000ウォンでもコメを売らなかったという。

怪しまれることを覚悟しつつ、思い切って最近の食糧事情を尋ねると、旅行者に見えたのか、逆に質問された。「北の方は随分大変で、人を捕まえて食べているそうじゃないの?」。直接見ていないので分からないが、そういった話は咸鏡北道に住む知人たちからも耳にしたことがない。「そんなことはないでしょう」と笑いながら答えると、そばで私たちの話を聞いていた女性が強い口調で言った。「まるでこの地域にはそういった話が無いような言い方じゃないの」。
顔を見ると笑っていない。やはり食糧事情は大分厳しいのだろう。

どこの市場にも入り口には掲示板があり、様々なお知らせや布告文が貼ってある。その中の一枚の布告文に私の目は釘付けになった。内容にはこうあった。
『写真を撮っているかのような怪しい行動をしている者、風体が疑わしい者はすぐに申告せよ』
つい先ほど私が見聞きしてきたような、朝鮮の「本当の事情」が海外に知られることを、当局がいかに気にしているのかが分かるというものだ。私も注意しなければならない―。
(つづく)

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注1 哨所
保安部(警察)、保衛部(情報機関)などが設ける検問所。旅行証明書の確認や、運搬してはいけない禁制品を所持していないかなどの統制・監視が主な業務。

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