「核実験より民生に金回すべき」が北朝鮮の強い「世論」だと思われる。2012年11月両江道恵山市撮影(アジアプレス)

「核実験より民生に金回すべき」が北朝鮮の強い「世論」だと思われる。2012年11月両江道恵山市撮影(アジアプレス)

それでは、実際には北朝鮮の人たちは核実験や「ロケット」発射をどのように受けとめていたのか?私たちアジアプレスの取材チームは、昨年から何人かの住民に話しを聞いている。紹介しよう。

「ロケット1発で全国民3年分の食糧買えると言い合っている。軍事に大金をつぎ込むから生活悪くなると皆わかっている。でも、上のやることに反対なんてできないんです。一族皆捕まりますから」(30代の男性労働者)

「本心か上辺だけなのかわかりませんが、男たちの中には、我々の核で米国も『下の町』(韓国のこと)もぶるぶる震え上がっていると、自慢げに話す人もいます。でも飢え死にも出ているのに何の核実験ですか。大方の人は日々食べていくのに精一杯なので核実験なんかどうでもいいという態度です」(前出の40代女性)

金正恩氏が次期後継者として登場した時、若いから新しい政治を始めるのではないか、改革開放の方向に進むのではないか、という期待の声が北朝鮮内部に少なからずあった。ところが昨年の体制発足後、彼への評価は下降の一途であると筆者は感じている。最大の理由は暮らしが悪くなったためだ。

昨年9月に中国で取材した朝鮮労働党の中堅幹部は、次のように語っていた。
「今年になって党も軍も、金正恩の偶像化、権威付け一色。凄まじい金と労力が投じられている。それは、あの若造に何の中身もないからだ。ごく親しい幹部同士では『親父の代より悪くなるぞ』と言い合っている」

金正恩体制発足後、平壌の中心ばかりが美しく整備され、「ロケット」と核開発が躊躇なく進められてきた。どちらも生産に役立たない政治的浪費だ。他方で、穀倉地帯の黄海道では昨年大量の餓死者が発生する事態が起こっている。軍と平壌に優先供給するために農村の食糧が無理に徴発されたせいだ。

「米国からの自衛」を看板を、「人民が望んでいる」という名目にして核開発に突き進む先軍政治。北朝鮮の民衆はそれを望んでおらず、また民衆の利益に反していることは明らかだと思う。
※ アジアプレスでは中国キャリアの携帯電話を北朝鮮内部の取材パートナーに送って情報収集している。

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