◆法の不備を示す3者協定

そうして8月に新宿区と保護者、解体業者の3者で解体工事協定を結ぶことができた。この3者協定がじつに画期的だ。

たとえば、新宿区は工 事期間中に必要に応じて保育園敷地内でアスベスト濃度測定を実施することになっており、そのさいのフィルターの半分をアスベストセンターに送り、測定結果の第三者による検証ができるようにしている。

保育園敷地内における濃度基準を定められた。その基準は1リットルあたり0.6本。しばしば「敷地境界基準」として説明される「1リットル当たり10本」に比べ、約17分の1とかなり厳しい。

行政や業者が「1リットル当たり10本未満だから問題ない」と行政や業者が主張することが少なくないが、この数値は生涯ずっと吸った場合1000人に1~2人が悪性中皮腫で死亡する濃度で、現在の環境基準が10万人に1~2人のリスクをもとに設定されていることを考えると異常にゆるい。

そもそもこの濃度 基準は工場敷地境界から数十メートルは誰も立ち入らない緩衝地帯があることを前提としている。しかもアスベストのうち、クロシドライト(青石綿)やアモサイト(茶石綿)といった角閃石系のアスベストに比べて発がん性が低いクリソタイル(白石綿)のみを対象とした基準であり、過去に使用された角閃石系のアスベストが飛散する可能性のある解体工事などでは適用できないことは環境省も認めている。

環境省が実施した2012年度のアスベスト大気濃度測定結果によれば、住宅地域の全国平均は1リットルあたり0.13本だ。現在の環境省の測定マニュアルでは1本を超えた場合、電子顕微鏡で再検査する必要があるとされる。つまり異常値ということだ。その約半分の濃度であり、たしかに厳しい基準だが 、それなりに妥当性があるといえよう。

また石綿濃度が1リットルあたり0.6本を超えたら、園児を避難させることのほか、作業を中止し原因究明と改善がされるまで工事を再開できないことも定められている。

アスベスト除去作業後には、区側の立ち入り検査を受ける義務も設けられた。レベル3の建材の撤去工事においても、建物の開口部などを養生する義務もある。そして、将来アスベスト疾患を発症した場合、補償のための協議義務も位置づけられた。

これらすべてが現在法的な位置づけがない事柄である。それだけ現行の法令やその運用に不備があるということだ。
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