平壌市郊外の公設市場入り口に掲げられた黒板には「援軍美風の先駆者たち」と大書きされ、商人の名前と扱う品目、そして「献納」した軍糧米の量が記されている。(2011年2月 キム・ドンチョル撮影)
平壌市郊外の公設市場入り口に掲げられた黒板には「援軍美風の先駆者たち」と大書きされ、商人の名前と扱う品目、そして「献納」した軍糧米の量が記されている。(2011年2月 キム・ドンチョル撮影)

 

解説 人民軍兵士はなぜ飢えるのか4

◆軍糧米調達できず「徴発」に踏み切る

北朝鮮政権は従来、軍糧米を次のようにして調達してきた。
1 協同農場などの国内生産から国家に納付されたもの。
2 輸入や国際支援など海外から導入されたもの。
3 軍の副業地の生産物。

現状は1~3ではまったく足りないため、2011年には4「軍糧米徴発」を始めた。都市住民からの露骨な収奪をスタートさせたのである。

協同農場の農民に対しては、はるか20年前から軍糧米の収奪は始まっていた。協同農場では、収穫のうち規定量を国家に納めた残りが農民の取り分= 「分配」となり、毎年秋に支給される。だが、「愛国米」「軍糧米」、あるいは平壌建設のため「首都米」などの名目で「分配」の中から差し引かれるようにな り、それは現在まで続いている。

ところが2011年になると農村からの収奪だけでは足りず、それが都市住民にまで拡大された。1月末頃から「軍糧米の献納」を呼びかけるとともに強制的な「徴発」を始めた。新しい標的は商売をする民衆たちである。

キム・ドンチョル記者は2011年1~4月、この軍糧米の強制「徴発」について詳しく取材した。公設市場で商売をする人々に対し、「軍糧米の献納」を強要し、納められない者に恫喝をかける様子が撮影した映像に記録されていた。

軍糧米を実際に集めるのは軍人ではなく、「市場管理員」という役人で、市場で商売をしている一人一人に対し直接コメやトウモロコシを納付させていた。

また、直接市場に立たずに「運び屋」や「卸業」をする人も標的になっていた。農村に出向き、コメやトウモロコシ、果物や野菜などを仕入れ、市場の小 売人に卸売りをする「テゴリ」と呼ばれる零細商人からもキム・ドンチョル記者は聞き取りをしていた。保安員(警官)が「テゴリ」たちを道で待ち構え、農村 から穀物を一定量以上搬出するのを検挙するという。

「農村で買いつけたトウモロコシを軍糧米として没収された。俺たちに飢え死にしろとでもいうのか?」
このような「テゴリ」たちの嘆きの声が映像には記録されていた。
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