(参考写真)兵士たちが干したトウモロコシを集めている。農場員(農民)たちが収穫せずに放っておいた畑のものだが、軍糧米確保のため、軍が直接収穫し、干したあと持っていくのだという(2008年10月黄海南道クァイル郡 シム・ウィチョン撮影)

 

◇軍糧米の無理な強制徴収で過去に多くの農民が死亡
金正恩政権は、国家方針として軍糧米の徴収を最優先に進めている。ターゲットとなるのはもちろん協同農場である。そのため農民の生活を最悪の状態へと追いやっている。先に挙げた両江道と咸鏡北道は北部の山間地帯であるため耕地面積も少なく、気温も低いため収穫高は多くない。また、寒さがとても厳しい上に冬が長く、北朝鮮の他地域に比べても、食糧が底を付く「春窮期」が長期にわたるのが特徴だ。こうした中で軍糧米を過度に徴収していくのは、農民の生命を脅かす仕打ちと言わざるを得ない。

両江道の取材協力者は来年の農村の食糧事情をこう懸念する。
「今年は軍糧米の徴収が多かったため、来春の農民たちの苦労は計り知れないものになるだろう。個人用の畑で育てたジャガイモと、少ない分配穀物を食べてしまえば、春には食べるものがない。倒れて死ぬ農民たちも出てくるだろう」。
北朝鮮ではこれまで、同様の事態が繰り返されてきた。特に2012年には、北朝鮮随一の穀倉地帯である黄海南北道の農村で、過度の軍糧米徴収により少なくとも一万人以上の餓死者が出る惨事が起きている。

一方、北朝鮮では今年に入り「二号米」と呼ばれる戦時用の備蓄米貯蔵庫を放出して、都市住民に対する食糧配給を一部復活させていた。だが、今になって軍糧米を再び強い姿勢で徴収していることから、これはただの「古くなった備蓄軍糧米を新米に交換するための手段に過ぎなかった」という見方が、北朝鮮内外で挙がっている。

発足から2年にならんとする金正恩政権は、生産者である農民から食糧を収奪して軍隊と平壌をはじめとする都市住民に回すという愚行を繰り返している。金正恩氏は、「国民の生活改善を最優先にする」と昨年4月に「施政方針」を演説したが、それが建前、絵空事に過ぎないことを、今秋の「分配」状況はよく表している。

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