新紙幣の裏面に描かれた国際親善展覧館。発行年は2013年とあるので紙幣交換は昨年から準備されていた。8月に北朝鮮内部で撮影(アジアプレス)

新紙幣の裏面に描かれた国際親善展覧館。発行年は2013年とあるので紙幣交換は昨年から準備されていた。8月に北朝鮮内部で撮影(アジアプレス)

◇1万ウォン紙幣発行の準備?...政府の意図はどこに

最後に、新紙幣発行の意図について触れてみたい。アジアプレスが入手した写真によると、新紙幣の表面は、これまであった故金日成主席の肖像画の代わりに、 旧紙幣の裏面だった金日成の生家があしらわれている。一方、裏面には新たに「国際親善展覧館」が登場した。平安北道の妙香山に位置するこの施設には、世界 各国から故金主席に贈られた記念品が展示されている。

注目したいのは、故金主席の肖像画が無くなったという点だ。紙幣交換の一報をもたらした取材協力者は住民の反応をこう伝える。
「5000ウォン紙幣といえども価値がないため、雑に扱われることが多い。金日成の肖像画がボロボロになるなど敬意が払われない現状を変えるためという見 方がある。また朝鮮ウォンがどんどん下落しているため、金日成の権威も下がってしまうのを心配してのことだろうという意見もある」。

また、北朝鮮北部に住む行政機関職員の別の取材協力者は、
「そのうちに新たな最高紙幣として1万ウォン紙幣が発行されると幹部から聞いた。この紙幣には、金日成-金正日が並んで登場するらしい」
と語った。
2011年末に金正日氏が死亡して以来、労働党の党員証や街中の肖像画は、金日成単独のものから、全て金正日氏のものが加えられた「双肖像画」に変わっている。これは、死んだ金正日氏を金日成氏に並ぶ「神様に格上」したことを意味すると言ってよい。

北朝鮮経済は依然として低空飛行のさなかにあり、今後も通貨ウォンをめぐる様々な混乱が予想される。今回は当局のすばやい対応もあり、09年のよう なパニックは起きなかった。だが、北朝鮮住民が政府に抱く不信感がいかほどであるかが垣間見られた一件であったといえる。(取材・整理/カン・ジウォン、 ペク・チャンリョン、石丸次郎)

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