イスラム国が台頭するなかで、欧米諸国の有志連合はイラクに続き、シリアへの空爆を開始した。シリア人でアラブ紙アル・バヤンのフェルハッ ド・ヘンミ記者(29)は、空爆は根本解決にはならないと話す。過激主義を封じ込め、シリア内戦終結に有効な道筋とは何か。インタビューは米軍のシリア空 爆開始前、電話を通じておこなわれた。(全3回)【聞き手・玉本英子】

イスラム国には外国人義勇兵が加わる。その多くがトルコ国境を越えて入り込んでくる。写真はクルド組織がイスラム国戦闘員から押収したパスポートや身分証。リビア、イエメンなど国籍はさまざまだ。(2014年9月 シリア・カミシュリで撮影・玉本英子)

イスラム国には外国人義勇兵が加わる。その多くがトルコ国境を越えて入り込んでくる。写真はクルド組織がイスラム国戦闘員から押収したパスポートや身分証。リビア、イエメンなど国籍はさまざまだ。(2014年9月 シリア・カミシュリで撮影・玉本英子)

 

◇市民巻き込む空爆より外国義勇兵流入阻止を

◆アメリカの動きをどう見ていますか?
(※注:インタビューの時点では、米軍はイラクのイスラム国拠点には空爆をしていたものの、シリアには軍事介入していない)

ヘンミ記者:アメリカは、イラクではバグダッド中央政府と、クルディスタン地域政府の双方と同盟を結んでいま す。しかしシリアはイラクとは異なります。アサド政権は、アメリカの介入を認めてはいませんし、アメリカと同盟関係にあるシリア国内の反政府勢力も結束し ているわけではありません。

アメリカにとっては、イスラム国は脅威である一方、アサド政権をより弱体化させる存在でもあります。
そこにはアメリカの利害バランスが働くでしょうし、それを計算することでしょう。これまでイスラム国による大量殺戮がおこなわれてきましたが、具体的な措 置はとられませんでした。私自身、今後、アメリカがどうでるのかはわかりませんが、少なくとも、彼らは自身の国益のもとに動くのであって、シリア国民のこ とを最優先して動いてくれるのではないと思います。

◆ジャーナリストの視点として、アメリカはシリアに介入すべきと思いますか?

ヘンミ記者:介入といっても、さまざまな制約があるでしょう。アメリカが、シリアの人びとを助けたいと思ったと しても、いろんな問題が絡み合っています。交渉で妥協や譲歩もあるでしょう。たとえばイラクで米軍の空爆がおこなわれていますが、それは部分的な拠点に対 してのみなされています。

空爆をおこなって、ではそれでイスラム国を本当に叩くことができるのか。そんな一部的な戦略で彼らを壊滅させることはできないと思います。彼らがど んどん組織を拡大しているなかで、わずかな軍事拠点を攻撃しても十分ではないでしょう。イスラム国の支配地域のユーフラテス川沿いに大きなダムがありま す。シリア空爆が始まれば、彼らはそれを爆破して決壊させるかもしれません。すると広範な地域が水没し、町も土地も沈むことになります。イスラム国はそう やって住民全体を人質にするかもしれません。

シリアを流れるユーフラテス川、イスラム国はユーフラテス川周辺で支配地域を広げている。内戦前は今のような過激主義がこれほど力をもつような土壌はなかった。(2004年撮影・玉本英子)

シリアを流れるユーフラテス川、イスラム国はユーフラテス川周辺で支配地域を広げている。内戦前は今のような過激主義がこれほど力をもつような土壌はなかった。(2004年撮影・玉本英子)

 

シリアとイラクの人びとを助けたいなら、きちんとした広範な戦略を持って取り組まないとなりません。自らを守るすべを持たない人びとをどうすれば助 けることができるでしょうか? トルコやサウジアラビア、イラク、イランなど周辺の国々に対し、協力を仰ぐ必要があると思います。それらの地域に暮らす人 びと、そこの文化、風土に受け入られる形で働きかけをすべきでしょう。空爆は確かにいくつかの拠点を破壊することはできるかもしれませんし、まったく意味 のないものだとは思いませんが、それで根本的な解決がもたらされはしないことを認識すべきでしょう。
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