女性の前にあるのはアイスキャンデーを入れる箱。冷凍庫を持つ人が製造して卸売りする。(2008年8月平壌市郊外 チャン・ジョンギル撮影)

女性の前にあるのはアイスキャンデーを入れる箱。冷凍庫を持つ人が製造して卸売りする。(2008年8月平壌市郊外 チャン・ジョンギル撮影)

 

◇国家による労働配置
従来、北朝鮮には職業選択の自由は存在しなかった。働く場所も、職種も、労働条件も、北朝鮮では個人が関与・決定する余地はまったくなく、満17歳で6年制の中学校を卒業すると(注1)、軍隊に行くか、大学、専門学校に進学するか、それとも農場や企業所などの職場に配置されるかである。配置先の希望は一応提出できるが、決定権は政府にある。

職場への配置は、居住する市や郡の人民委員会(地方政府)の労働課が行う。学校から提出される成績や素行などの評価文書(評定書という)や個人情報をもとに学校が推薦し、労働力の「需給状況」を判断して決める。大学卒業者の場合は、幹部候補として、大学と地方・中央の「労働党幹部部」が協議して決めるが、在学中の体制への忠誠度、成績、出身成分を総合的に判断して配置先が決められる。

もう一度社会主義労働法を見てみよう。第25条には「国家は、都市及び農村のすべての労働力資源を統一的に動員、利用する」とあり、第29条には「国家は、国の労働力の源泉を積極的に動員し、労力の予備を体系的に育成し、人民経済の労働力需要を計画的に充足させる。

各級経済機関と労働行政機関は、国家の経済政策の要請に合わせて労働力補充調節計画を立て、人民経済発展計画に予見された労働力需要を適時保障し、人民経済部門と地域に労働力を正確に調節、配置しなければならない」と記されている。

旧ソ連や旧東欧社会主義国、改革開放前の中国などと同様に、北朝鮮でも社会主義統制経済体系のもとで、労働力の配置は国家が計画して行ってきた。そこに見えるのは、労働力を資源とみなし、その管理、動員、配置は国家が決めるという思想と制度である。

つまり、仕事に就くということは、日本や韓国では、個人が主体となる「就職」であるが、北朝鮮では国家権力による「配置」なのだ。

これは、強制力による動員制度である。その代わり、資本主義社会では不可避の失業を無くすことが謳われ、景気の浮沈や経営の良し悪しに関係なく、国定の給料(生活費と呼ばれる)を支給し、配給制によって衣食住は保障されることになっていた。配給と動員をセットにした労働体系だと言っていい。
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