人民軍兵士用の食糧である「軍糧米」。農場からの徴収がうまくいかず混乱が続いていると、北部地域の取材協力者が25日伝えてきた。(カン・チウォン/石丸次郎)

兵士たちが干したトウモロコシを集めている。農場の畑に軍が直接入って収穫して干した後持っていくのだという。2008年10月黄海南道クァイル郡にて撮影シム・ウィチョン(アジアプレス)

兵士たちが干したトウモロコシを集めている。農場の畑に軍が直接入って収穫して干した後持っていくのだという。2008年10月黄海南道クァイル郡にて撮影シム・ウィチョン(アジアプレス)

 

本来、協同農場では、生産高のうち国家の取り分と農民の取り分(分配)の比率が決められ、「軍糧米」は国家の取り分の中から充当されてきた。

軍隊は、「副業地」と呼ばれる自前の田畑を持って耕作もしている。しかしそれを加えても慢性的に不足するため、90年代末以降、農場員の分配から差し引いたり、強制徴収したりすることが常態化。都市住民に対しても、供出を強要する事態が続き、国民の大きな負担となって不満が大きかった。

2012年度には、穀倉地帯の黄海道の協同農場で、大規模な強制徴収が強行され多くの餓死者が発生している。

アジアプレスでは昨年来、北朝鮮の北部地域で協同農場の実態調査を続けてきた。2014年から、農場として共同で耕作する農地(「共同地」と呼ばれている)と、農場員の取り分(分配)を保障するための農地が別に定められ(「個人土地」と通称されている)、「個人土地」の生産高の70パーセントを農民の取り分とする新しい運営方法が導入されたことがわかった。※1

農民は取り分を自由処分できるようになり生産意欲も高まっていたのだが、昨年と今年の明けに、別途「軍糧米」を一人当たり20~50キロ徴収されることになり、「これまでと変わらない」「約束破りだ」と不満が広がっていた。

「今年は農民の中に、『軍糧米』を追加で供出することを拒否する者がたくさん出ていた」と、協力者は述べる。

これに対し、農場側も強硬手段に出た。5月9日に党大会が終り、農作業が本格化する段になって、「軍糧米」を出さなかった農場員に対して、農場が割り当てる「個人土地」を没収することにしたのだ。取材した協力者が言う。

「生産高50キロ分相当の面積を取り上げることになったため、渋々『軍糧米』を出す者あるが、痩せた土地を割り当てられていた農民の中には、処置を無視して出さない者もいる。農民たちは『今の朝鮮は、国家が地主で農民は小作農だ』などと揶揄している」。
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