バシャールさんの母親は空爆で足を負傷した。「爆音とともに家が崩れ、気がついたら夫が死んだと聞かされた」。(モスル市内で2月下旬・玉本英子撮影)

2003年のイラク戦争以後、モスルはずっと戦火にさらされてきた。駐留米軍に対するイスラム武装勢力の攻撃は、のちにイラク治安部隊や行政職員へも向けられた。その後、宗派抗争で激化、シーア派主導のマリキ政権が、スンニ派武装組織の活動拠点だったモスルで強力な治安対策を進め、警察や軍による不当逮捕や拷問は一般住民にも及んだ。ISが台頭し、支配は2年半となった。

ISが敗退した地区では、いまも混乱が続く。元IS協力者への復讐や襲撃があいついでいるのだ。ソメル地区でもIS関係者として知られた青年と、その家族がナイフで刺される事件が起きた。どの家がIS支持者だった、と隣人のあいだに不信が生まれている。

西部地域ではISが最後の抵抗を続けている。空爆では200人以上の市民が巻き添えとなって命を落としたという。モスルのIS壊滅は間近いといわれる。だが、住民の心に残した傷は深く、悲しみが続いている。【玉本英子】
(※本稿は毎日新聞大阪版の連載「漆黒を照らす」4月11日付記事を加筆修正したものです)
 
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