自衛隊員も違法命令に従わなくてよい

自衛隊も、隊員に違法な命令には従わないことを求めている。自衛隊法第57条は、「隊員は、その職務の遂行にあたっては、上官の命令に忠実に従わなければならない」とするが、命令の内容は法令上命令を受ける者の職務に属し、適法で、実行可能なものでなければならない。命令に明白かつ重大な違法があると認められる場合、その命令は無効とされる。

命令は、国内の軍事法制上合法であるのみならず、国際人道法をはじめとする国際法上の規程にも合致した命令でなければならない。自衛隊員が、命令の違法性を知りながら、あるいは違法であることが命令を受けた者の知ることのできた状況から明白であるにもかかわらず、犯罪命令を遂行した場合、刑事責任を問われる(8)。つまり、間違った命令・違法な命令に従った場合、その責任は兵士個人が負うとされているのである。

2016年8月に放送された「自衛官とその家族-戦後71年目の夏」(MBS大阪毎日放送)の中で、防衛大学校の授業風景が紹介されていた。海外での武力行使が現実的になった状況に即して教官は、幹部候補生に向かって、「君たちが命令をすれば、部下はその通りにする。誤った命令をした場合、その責任を負うのは彼らだ」と命令を下す側の責任の重さを強調していた。(続く)

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(1) 前田朗『人道に対する罪』青木書店、2009年、141頁。

(2) 国際法で用いられる「抗弁」とは、英米刑法上の用語で、一般には、犯罪の定義にあるすべての要素が立証されているにもかかわらず、被告人を無罪とする効果をもつ諸事情を意味する。「抗弁を認めない」という表現は有罪を意味するが、減刑の可能性まで否定するものではない。佐藤宏美『違法な命令の実行と国際刑事責任』有信堂、2010年、22~24頁。

(3)兵士個人の責任については、藤田久一『戦争犯罪とは何か』岩波書店、1995年、前田朗『戦争犯罪論』青木書店、2000年、多谷千香子『戦争犯罪と法』岩波書店、2006年他を参照。

(4) 極東国際軍事裁判所条例第8条「被告人がその政府又は上司の命令に従って行動したという事実は、被告人の責任を解除するものではないが、裁判所において正当と認める場合は、刑の軽減のために考慮することができる。

(5) Ingrid Detter, The Law of War, second edition, Cambridge University Press, 2000, 429-430p.

(6)多谷千香子『戦争犯罪と法』岩波書店、2006年、139~140頁。

(7) もちろん命令を下す人についても、その責任が追求される。上官は、彼の指揮下にある部下の行った戦争犯罪に対して、彼がそれに関連する命令を下しているか、その行いの計画を知っていながら、それが実行されることを阻止しなかった場合、通常責任を負う。「軍司令官または事実上司令官として行動した人は、本裁判所の管轄に属する犯罪が、その者の実効的な命令および監督のもとにある軍隊によって行われた場合、または次に掲げる場合において、その人が当該軍隊に対する適切な監督を欠くことによって事件が発生した時にあっては、本裁判所の管轄に属する犯罪が、その人の実効的な権限および監督のもとにある軍隊によって行われた場合に、刑事責任を負うものとする。」(ICC規定第28条)

(8) 奥平穣治「軍事組織における指揮命令関係の課題-わが国の国際平和協力の一層の推進に向けて-」『防衛研究所紀要』第12巻第2・3合併号(2010年3月)、72~73頁。

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