シナコ・センターを後にした私たちは、クワーキー30という名の非営利組織を訪ねた。クワーキー30では、経済的に困難な状況にある若者に向けて、ウェブサイトのコーディングとデザインの技術を教えている。 「今はクラウドの時代です。技術さえあれば、世界中どこからでも仕事を受けることができます」 そう話すシレCEOの経歴は、かなり異色だ。

クワーキー30のシレCEO(ランガ・南アフリカ 2017年/Langa,South Africa 2017 撮影:岩崎有一)

極めて成績優秀だったが大学進学に興味を抱けず、麻薬の元締めを経て、銀行強盗を繰り返すようになった。 その後11年間に渡り、重犯罪者ばかりが集められた獄中で日々を過ごす中で、シレは人生を改めるにいたり、数学と英語の教師となる。模範囚として刑期を終えたのち、プログラミング技術の可能性に気づいた彼は、この技術はタウンシップの若者を救うと確信し、獄中で出会ったムジとともにクワーキー30を立ち上げたのだった。

クワーキー30でコーディングを学ぶ受講者(ランガ・南アフリカ 2017年/Langa,South Africa 2017 撮影:岩崎有一)

船舶で使うコンテナを使って作られた教室には、PCと受講者がぎっしり。すべてのPCに、アドビのアプリケーションがインストールされているとのことだ。 「南アでは若者の2人に1人が職につくことができていません。一方で、世界中で技術者が求められています。技術があれば、南アの若者もチャンスをつかむことができるはずです」 シレCEOは私に、技術が若者を救い社会を変えるとの思いを、熱く語り続けた。

クワーキー30のムジ経営責任者。廃材を用いて作った腕輪を手に、アクセサリー制作事業を説明してくれた(ランガ・南アフリカ 2017年/Langa,South Africa 2017 撮影:岩崎有一)

ところで、ランガの街並みには、カエリチャでは見られなかった古い長屋が見られる。「ホステル」と称されるこの住居はアパルトヘイト時代に作られ、そのいくつかは今もそのまま残されている。 ランガは、1923年、住人の徹底した可視化とコントロールを重点に置いて作られた、約3平方kmの大きさのタウンシップだ。民族、職業など、細かく設定された属性に応じてホステルに住まわせられ、集会の自由も、外部からの来訪も、厳しく禁じられていた。 ランガを移動中、クリストフが木陰で住人と談笑している男性を見つけ、声をかけた。ランガに生まれ、現在65才となるゴッドフレイは私を笑顔で迎え入れ、当時の様子を話してくれた。 「ホステルとは言うけれど、それはそれは狭いスペースだったのですよ。生活するための場所とは言いがたい部屋でした。民族ごとに細かく分けられ、性別においても分けられていました。IDカードも何枚も持たされて。民族を示すID、職業を示すIDといった具合に。」 ニコニコとしながら、やんわりと、ゴッドフレイはアパルトヘイト時代の様子を話し続けた。 「どこに住むのかを自分で決めることができなかった時代ですから、家族と離れ離れにさせられることもありました。私はランガで生まれ育ったのですが、ある日、まったくゆかりのないダーバン郊外のタウンシップへと強制的に移住させられました。その後、アパルトヘイトが終わってやっと、ランガに戻って来られたわけです。」 彼の淡々とした柔らかい語り口から、アパルトヘイト時代の壮絶さがしみじみと伝わってくる。

終始穏やかな語り口のゴッドフレイ(ランガ・南アフリカ 2017年/Langa,South Africa 2017 撮影:岩崎有一)

私は彼に、ランガでゼノフォビアが問題となることはあるのかを、訊ねた。 ゼノフォビアとは、外国人に対する嫌悪感情を意味する。私がこの言葉を南アで初めて聞いたのは、2009年のことだ。2010年のサッカーワールドカップを控えていた当時、南アに居住している南ア国籍以外のアフリカ人が、南アに暮らす黒人の職を奪っているとの声が、高まりつつあった。この感情の高まりは、南アに出稼ぎに来ているソマリア人やナイジェリア人、ジンバブエ人などの家屋や店舗の襲撃事件発生にまで及んだ。 民族や職業で分断され差別された生活を余儀なくされてきたゴッドフレイが、ゼノフォビアをどう見ているのかを、私は聴いてみたかった。 「ランガでは、ゼノフォビアは問題となっていません。」 私の際どい質問にも、彼はこれまで同様、淡々と応えた。 「あの(アパルトヘイトの)時代も、インド系、マレー系など、様々な民族がここで同居してきましたが、憎しみあうようなことはありませんでした。それぞれお互いに異なるコミュニティを形成し、互いのコミュニティを尊重してきました。数は少ないですが、いまは中国人も住んでいます。あなたがここで暮らしたとしても、何も問題はありませんよ。ここは小さな町ですから、お互いのことをよく知ることができます。しかし、大きな町では、お互いにお互いのことがわからないため、誰が信頼できるのかがわからないのです。それが、ゼノフォビアが起こる原因なのだと、私は考えています。」 確かに、互いをよく知る関係が構築されていれば、隣人を襲うことは起こりにくい。ドラケンスバーグでは、互いに顔を知っているため犯罪は滅多に起こらないと聴いたことを思い出した。 次のページ: ランガにおいても、現在は…