衛星写真が捉えた清津市の漁港。係留されている船の多くがイカ漁船だという。(グーグルアース)

◆イカ漁復活の理由は密輸

北朝鮮のイカ漁の拠点は東海岸の清津(チョンジン)市だ。ここに権力機関がたくさんの水産事業所を作っている。実際に漁労するのは、多くの場合下請け、孫請けの零細漁民たちだ。

清津市で水揚げされたイカは、冷凍、スルメに加工されて、国境都市の羅先(ラソン)に運ばれて中国に輸出される。7月初旬、この羅津の海産物市場に、北朝鮮国内に住む取材パートナーに調査に行ってもらった。

「昨年まで、良質の一等級のスルメは1キロ当たり75中国元(約1275円)で取引されていたが、それが年末に55人民元(約900円)に下がり、制裁によって中国への輸出が完全に断たれ、今年に入って市場価格が暴落していた。それが、密輸ルートが開かれて、最近では1キロ48人民元(約790円)まで値が戻っているそうだ」

密輸は主に両江道地区で行われているという。中国当局は国境警備を厳格化して密輸を遮断していたが、金正恩氏が二度目の訪中をした5月8日以降復活。豆満江と鴨緑江の上流に位置する両江道で、北朝鮮側の国家機関によって大々的に行われているのが現状だ。

「海産物市場で聞いたところ、制裁が緩和されることを見込んだ中国の業者が、スルメの買い付けを始めて値が上がったそうだ。スルメは羅先市内の倉庫に保管しているという」

このように協力者は言う。スルメの他にも、中国の業者は海産物を冷凍倉庫で保管しており、日本海側の漁業全般が、活魚を除いて回復が続いているという。

日本でも北朝鮮でも、イカ漁の最盛期は7~8月。現在のところ、大和堆周辺への北朝鮮漁船の出没は稀なようだ。だが、もし経済制裁が緩和されて海産物輸出が解禁されるようになれば、一獲千金を狙う漁船が日本近海まで遠征してきて、昨年のように漂流船が相次ぐ可能生がある。(石丸次郎/カン・ジウォン)

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