中国公安当局が北朝鮮との国境沿いに立てた密輸、麻薬売買禁止の看板。2017年7月に撮影石丸次郎

北朝鮮で覚醒剤の蔓延が問題になったのは最近のことではない。金正恩氏の指示で、薬物犯罪を厳しく取り締まっているという情報もしばしば届く。だが、覚醒剤使用は、根絶どころかさらにすそ野が拡がり続けているようだ。10月に入って、日本の高校にあたる高級中学の生徒が、校内で覚醒剤を吸ったとして検挙されたという情報が飛び込んできた。

北部の両江道恵山(ヘサン) 市の取材協力者が10月末に伝えてきたところによると、市内の新興(シンフン)高級中学の校内で覚醒剤の服用、密売が行われているとして保安署(警察)による集中捜査が行われ、5人の生徒が検挙された。親も保安署に呼ばれて調査を受けているという。

取材協力者の説明はこうだ。

「新興中学校は、トンチュ(新興成金)や、政府・党の幹部の子供たちが通う学校として有名。問題なのは、子供たちが親を介して薬物に接したり、友人同士で気軽に吸引を勧め合うことだ。最近では生徒たちの間で、『オルム』(覚醒剤のこと)を吸ったら一人前とみなされるという風潮まである。若者が中毒になったり、密売に動員されるケースもある」

協力者によれば、現在、覚醒剤の流通価格は1グラムの120中国元(約1840円)なのだという。

◆覚醒剤が蔓延するようになったのはなぜか。

北朝鮮当局は、外貨稼ぎのために麻薬や覚醒剤を中国への密輸を経由して世界に売りさばいていたが、中国を筆頭に、国際社会が圧力をかけた結果、2007年3月に、麻薬拡散防止のための代表的な三つの国際条約を批准した。

2011年2月20日付の朝鮮中央通信は「中国公安部長が国境地域の安全を守ることを強調」と題した記事を配信した。その中で、中国の国境警備隊が、国境地域で麻薬事件2153件を調査・処理して2883名を逮捕、3.8トンにも及ぶ大量の麻薬を押収した、と報じた。

北朝鮮の国営メディアが、中国当局の具体的な数字をあげて、自国の恥とも言える麻薬密輸の事実を認めたのは極めて異例のことだった。中国から強烈な圧力があったのは間違いないだろう。この頃から、北朝鮮政権は覚醒剤密輸に対して、黙認から取り締まりに転じたと見られる。

★新着記事