ラッカ中心部、セイフ・ダウラ地区のサリム・モハメッド・アルマスリさん(26)は、石材工として働いてきた。シャツの袖から、黒い手袋をはめた義手がのぞく。2016年夏、ISに右手首を切断されたのだ。サリムさんによると、自由シリア軍関係者の動向や所在を密告するスパイになれと強要されたが、断ったという。すると1か月間、刑務所に入れられ、その後、突然、「バイク窃盗の罪」を着せられた。

ISに手を切断される前のサリムさんの写真。スパイ強要を拒否したため、バイク窃盗の罪を着せられた。(2019年10月・ラッカ・玉本英子撮影)

裁判では弁論の機会は与えられず、宗教裁判官のスーダン人に刑を言い渡されただけだった。その日は金曜日で、すぐさまモスクの前の通りに車で移送された。夕方のお祈りが終わった人たち、子供も含めた数百人の群衆が彼を囲んだという。

2016年夏、セイフ・ダウラ地区のモスク前の路上で、サリムさんは手首を切断された。刑の執行の様子は群衆がとり囲んで見ていたという。(2019年10月・ラッカ・玉本英子撮影)

「鎮痛剤を飲まされたが、まだ意識はあった。ナタを持った男が、金属の板の上に右手を置いた。目隠しをされ、手首にドンと重い衝撃。切断の瞬間だった。『神は偉大なり」と叫ぶ人びとの声が聞こえた」。のちに職を失い、外に出ることもほとんどなくなった。

路上で手を見られ、「あいつは泥棒だ」と言われたこともある。近所の人たちが、「彼は窃盗なんかする人間じゃない」と言ってくれるのが心の救いという。地区住民たちは、どの家がISの協力者だったかよく知っていて、サリムさんは実際濡れ衣を着せられた、と口をそろえた。

「ISはいなくなった。でも私は失った右手を見るたびに、あの日の恐怖を思い出す。それは毎日、そして一生続くだろう」。サリムさんは、声を漏らした。

刑が執行された現場の前で当時の状況を話すサリムさん。「失った右手を見るたびに、あの日を思い出す」。(2019年10月・ラッカ・玉本英子撮影)

(※本稿は毎日新聞大阪版の連載「漆黒を照らす」2020年9月29日付記事に加筆したものです)