◆指導者への忠誠と服従を強いるシステム

そして、もう一つの政治犯が北朝鮮に特有の超法規の「掟」によって裁かれた人たちである。この人たちを拘禁する施設が、ヨハン一家が入れられた「管理所」、いわゆる強制収容所だ。管轄するのは国家保衛省だ(警察管轄の「管理所」が一カ所あるとされる)。

2014年に刊行された国連の北朝鮮人権調査委員会の報告書は「管理所」について、「8万~12万人が収容され、過去55年間に数十万人が死亡したと推定される」と記している。「管理所」は北朝鮮各地に点在していたが、統廃合進んで現在では推定4カ所。中国に近い地区のものは、逃亡する怖れがあるという理由で閉鎖されたようだ。

法に定めがない「管理所」送りは「革命化」と呼ばれる。北朝鮮には全国民、全組織を唯一の指導者(金日成、金正日、金正恩)に絶対忠誠、絶対服従させるシステム=「掟」がある。これを「唯一的領導体系」という。この「掟」に反したとみなされると「革命化」の対象になるのだ。

「在日」帰国者の場合、日本にいた時の調子で、つい暮らしに対する不満を口にしたり、指導者を揶揄したりして「革命化」対象になることが多かったという。「人前で金日成の肖像画を指さして『あんただけは、よう肥えてるなあ』と言って連れて行かれた帰国者がいた」と証言した脱北者がいた。まるで不敬罪だ。

労働党や人民軍の高級幹部たちも「掟」から自由ではない。指導者に対する忠誠度のチェックを受ける「生活総和」という会議が毎週ある。相互監視はむしろ庶民より厳格で、幹部の方が「革命化」に行かされる比率は高いのではないか。

法の定めがないということは、恣意的な運用、悪用が横行することを意味する。日本に住む脱北者の男性は次のように言う。

「幹部たちがライバル関係にある人間を追い落とすために『指導者の指示通りに行動していない』と告発したり、事件をでっち上げたりすることは茶飯事だ。また党や保衛省の幹部連中が、『在日』帰国者が日本から持ち帰った財産を狙って罪を捏造し、一家全員を逮捕して収容所に送り、財産を没収するという事件が70-80年代によくあった」

「管理所」には刑期の定めがない。出所できる可能性がある革命化区域と、一生出られない完全統制区域に分けられている。

収容所内には様々な生産施設があり、管理機関の利権になっている。主人公のヨハンは炭坑で重労働を強いられる。『トゥルーノース』より (C) 2020 sumimasen

◆収容所は村であり産業施設

意外かもしれないが、「管理所」は牢屋ではない。社会と隔離するため、山に囲まれた広大な敷地に設置されており、何千、何万人が住む一つの街である。多くの場合、収容者は粗末でも家をあてがわれ、家族と同居することもできる。いくつもの集落に分かれ学校もある。「管理所」によっては結婚や出産を許される所もあるが、そこで生まれて一生を過ごす人もいる。

そして「管理所」は巨大な産業施設でもある。農地、炭坑、鉱山やセメント工場が運営されていたという報告が多数ある。私が調査したある「管理所」では、中国への輸出用のカツラを作らせていた。生産物や収益は国に納められるが、管理する国家保衛省や社会安全省の利権になっている。この構造は教化所でも同じだ。ゆえに、生産継続のために一定の人員の確保が必要になる。教化所の労働力を補充するために逮捕者のノルマが地方の警察に課されることもある。

日本からの帰国者2世の主人公ヨハンと妹のミヒは収容者たちをいたわり、死者の弔いもしてあげた。『トゥルーノース』より (C) 2020 sumimasen

◆赤とんぼは収容所で唄われたか

日本から渡った「在日」帰国者たちは、祖国とはいえ、貧しく統制だらけの慣れない暮らしの中で、苦しかったはずの日本を故郷として懐かしんだ。「帰国者同士が集まると日本の歌謡曲や童謡をよく唄ったものです」と大勢の脱北帰国者が口を揃える。

姜哲煥氏など、強制収容所を体験した人たちによれば、そこには帰国者だけが集められた「在日村」があったという。収容所送りになった「在日」には、日本で著名だった音楽家、ボクサー、朝鮮総連の幹部もいた。日本人妻もいた。その総数は少なくとも数千名に及ぶと筆者は見ている。

「夕焼け小焼けの赤とんぼ…」

強制収容所の中で、きっと唄われたに違いない。私はそう思っている。

※「トゥルーノース」のパンフレットに書いた解説に加筆修正しました。